【西川結城のアドバンテージ(21)】新型コロナウイルス禍でJリーグも過去にない過密日程の下、厳しい連戦が続く。2月下旬からのリーグ戦中断が明けて7月上旬に再開。中3日、中2日で試合を重ねていくスケジュールのまま、12月下旬の終幕まで走り抜ける予定だ。

 2017、18年とリーグ連覇を果たし、J随一の選手層を誇る川崎が現在は独走状態。それを追う第2グループにいるのがFC東京だ。昨季は長らく首位に立ちタイトルレースをけん引しながら、最後は横浜Mに競り負け2位に終わった。悔しさを晴らす今季となる。

 元日本代表FWとして活躍した長谷川健太監督(55)はG大阪監督時代の14年にリーグ戦、カップ戦、天皇杯を全て制する3冠を達成した名将。勝利から逆算された現実的な采配と熱血指導で知られる。そのチーム運営を見ていると、改めて彼の懐の深さが際立つ。

 今季はリーグ再開後、日本代表でも主力のMF橋本拳人(27)がロシアに移籍し、同DF室屋成(26)もドイツへ。さらに昨季の躍進を支えた主将の東慶悟も負傷で長期離脱するなど、その時点で代えの利かないタレント勢がチームを離脱してしまった。普通のチームなら大打撃を受けたまま結果にも直結してしまうような事態。ただ長谷川監督はシーズン中ながら「試合をこなしながら、チームを再構築する」と腹をくくる。

 昨季まではJ1経験がほぼなかったFW原大智(21)、MF品田愛斗(21)、DF中村拓海(19)ら若手を起用し、1か月弱で戦力に仕立て上げていく。「これまで出番はなかなかなかったが、彼らが普段の練習などで着実に成長しているのは間違いなかった」と、自らの眼力を信じた上での決断。一気に若返りを果たし、大卒1年目のMF安部柊斗(22)やDF中村帆高(23)を含め、フレッシュな面々が躍動するチームに変貌した。

 もちろん、彼らの若さが裏目に出ることで試合を落とすことも。厳しい連戦下でベテラン勢にも疲労はある。ただ、そこでも長谷川監督は「いまこそ体を寄せる、足を一歩出す、攻め切るといった“ディテール”にこだわれ」と明確なプレー指針を選手たちに伝え、すぐに集団を上向きにさせる。負けが続かず、チームをすぐにリカバリーさせる指導からは人心掌握のうまさも垣間見える。

 窮地でも、リーダーとして覚悟を決めてはっきりと方向性を決められる胆力。そして戦術とメンタル両面で選手たちに働きかけられる説得力。毎試合、ベンチ前で常に選手と戦い続ける長谷川監督の“熱采配”は、今後も注目である。

 ☆にしかわ・ゆうき 1981年生まれ。明治大卒。専門紙「EL GOLAZO」で名古屋を中心に本田圭佑らを取材。雑誌「Number」(文藝春秋)などに寄稿し、主な著書に「日本サッカー 頂点への道」(さくら舎)がある。