【西川結城のアドバンテージ(20)】元日本代表DF内田篤人の引退は、サッカー界を飛び越え、世間全体に大きなニュースとして広がった。イケメンで女性人気も高く、そのタレント性ゆえに多くの関心を集める存在だった。

 サッカーの世界では見た目に反して非常に武骨で、誰よりも勝つことにこだわる、戦うリアリストだった。2007年から3連覇を経験した鹿島で培った勝者のメンタリティー。また渡独後も欧州CL(チャンピオンズリーグ)など大舞台で多く場数を踏み、真剣勝負を繰り返してきた。ドイツ時代の彼に「勝つための本質」や「日本が世界のトップレベルになるため」といったド直球な話を聞いたことがあった。

 先日の引退会見で内田はこう話していた。「サッカー選手を終えたので好きなこと言いますが、(日本と世界の)差は広がったと思います。CL決勝とJリーグの試合は違う競技だと思う。歴史が違うのである程度の時間は必要だし一概には言えないけど、差はすごくあると思います」

 衝撃的な発言として報じられたが、私が話を聞いた約3年前も、よりリアルな表現でこう語った。

「欧州サッカーはビッグビジネスであり、選手も多人種が交ざり合っている。お金と血、すごくデリケートな話だけど、日本だけがそれを無視するわけにはいかないのが現代だと思う。ドイツでも190センチで俺より速い選手がいる。そんな選手をお金使って強化したり、また11人集めてチームを形成できちゃうんです。でも、そのなかでどうしたら勝てるかを日本はずっと考えている。(元日本代表監督のイビチャ)オシムさんが『考えて走って』と提唱して…。でも、スペインが強くなれば、パスサッカーに揺れたり。まだ手探りでわかっていない。これは悔しいけど難しい問題です」

 当時身を置く本場の現実、空気を肌で感じながら語った言葉だけに、それは重たく響いた。こんな思考からも、内田が現実主義者であることが深く理解できた。

 さらに続けた。「きっと僕がプレーしている時代では答えは見つからない。30年でも足らないかも。1回や2回は日本も勝てるかもしれない。でも『強い』というのは確率論。いろいろ考えれば考えるほど『日本人はサッカーで勝てるのか?』にぶつかってしまう。本質をたどれば、そうなってしまうんです」

 血とお金。頭では理解できるが、現状の日本サッカー界で大きく変えられるテーマではない。「きれい事だけではもう勝てないんです」。内田の竹を割ったような実直な物言いが、余計にえぐるように本質を浮き彫りにする。

 ☆にしかわ・ゆうき 1981年生まれ。明治大卒。専門紙「EL GOLAZO」で名古屋を中心に本田圭佑らを取材。雑誌「Number」(文藝春秋)などに寄稿し、主な著書に「日本サッカー 頂点への道」(さくら舎)がある。