【西川結城のアドバンテージ】J1FC東京の17歳、MF久保建英が今季公式戦初ゴールを決めた。雨と寒風吹きすさぶ10日の秩父宮ラグビー場。実に1964年東京五輪以来、55年ぶりにラグビーの聖地で行われたサッカー競技。来年に迫った2度目の東京五輪での活躍が期待される久保が“先代五輪”の由緒ある場所で得点を決めチームを勝利に導いた事実は、どこか因縁めいている。

 現在、サッカー専門紙のFC東京担当も務めることから、日々チームや久保の取材にいそしむ。ここ数年の彼の印象は、どこか大人を前に戸惑いが見られた。例えばメディア対応でも、大勢の人たちに囲まれると、途端に口は重たくなる。終始ぶっきらぼうだった。

 この年齢の青年に、世間に向けて響きの良いコメントを求めるのは、マスコミ側のエゴと言われるかもしれない。一方、クラブ関係者や他の選手たちからは「建英はおしゃべりだし、物おじしない性格」であることもよく聞いていた。素顔の久保は、人前に立つ彼とは違い、人懐っこい青年なのだという。

 先日、久保にインタビューをする機会があった。FC東京の公式刊行物に掲載される記事で、時間にして約30分。ディープなサッカーの話をするときの表情は、すでに勝負の世界に生きる鋭さを見せた。普段の生活や趣味の話になると、今度は口調も軽やかに笑顔で話していた。好きなアーティストはback number。ロックバラードが好きだという。等身大の部分と、年齢に見合わないサッカー観。そこに素顔の久保がいた。

 最近、心なしか取材陣を前にした姿が、以前よりもリラックスしているように感じる。「まだ僕は何もしていません」。注目されてきた当初から、そんな言葉を連呼してきた。実際にプロの舞台でまだ常時出場も活躍もしていなかった時期でも、世間からはたくさんの耳目を傾けられてきた。何もしていないのにクローズアップされる。そんな状況を、きっと久保は苦しく思い、そして嫌がっていたように思える。

 17歳でトップレベルに輝く。世間は早いと見るが、彼にとってはようやくなのかもしれない。気苦しい表情をしていた彼も、朗らかに話す彼も目にして改めて感じる。ピッチに立ち続け、結果を出して初めて注目される。そんな正当な評価を、何より久保が求めているということを。 

 ☆にしかわ・ゆうき 1981年生まれ。明治大卒。専門紙「EL GOLAZO」で名古屋を中心に本田圭佑らを取材。雑誌「Number」(文藝春秋)などに寄稿し、主な著書に「日本サッカー 頂点への道」(さくら舎)がある。