侍ストライカーは世界最高峰の舞台でなぜ進化を続けられるのか。ハリルジャパンでは窮地に立たされているFW岡崎慎司(31=レスター)だが、イングランド・プレミアリーグでは自身最多の6得点をマークするなど今季は好調を維持。30歳を過ぎてなお成長を続ける秘訣を、かつてJ屈指の人気選手でJ1清水時代に岡崎の先輩だった佐藤由紀彦氏(41=現FC東京U―15むさしコーチ)が明かした。

 ――横浜Mから清水に移籍した2005年に、兵庫・滝川二高を卒業した岡崎も入団してきた

 佐藤氏:岡崎に関しては正直、プロでやっていくにはしんどいかなというのが第一印象だった。全てにおけるレベルが高卒選手の中でも劣っている感じだった。入団当初はケガが多くてスタートで出遅れていた。一方、僕は開幕戦で大きなケガをしてリハビリをしていて、そこで彼と練習する機会が出てきた。

 ――どんな練習をしていたのか

 佐藤氏:例えば、僕がクロスを上げて岡崎が合わせるという練習。彼は「ここにください!」とどんどん要求してくる。こっちも何年もプロでやってきた自負があるので「こんな小僧に言われたくない」と勝ち気になる。すると「もうちょっとこっちですよ」とまた言ってくるから、さらにこちらも力を引き出される。シュートみたいなスピードのクロスを入れていたよ。あいつはそれを全部ダイビングヘッドで合わせようとしてね。でもスピードを落としてくれと言われたことは一度もなかった。最初は追いつかないけど、しがみついて何回も何回も…。それこそ日が暮れるまでやっていた。

 ――すでに日本代表候補にも選出されていたほどの選手が、高卒新人に付きっきりというのは珍しい

 佐藤氏:僕がケガから復帰した後もルーティンになった。全体練習後に個人練習を始めてね。彼も必死だったと思う。

 ――まさに師弟関係

 佐藤氏:一緒にスパや食事にも行ったけど、そこでも彼は常に質問攻めをしてくる。そこまでされると、かわいい弟みたいな存在でね。当時の自宅に何度も泊めたけど、勝手に僕の服を着て「これいいっすね」とか言ってきたり(笑い)。それに彼はイジればイジるほどいろんなものが引き出される。それも彼の器の大きさなのかな。

 ――それこそが岡崎の資質なのか

 佐藤氏:彼は自分に合うもの、合わないものも含めて何でも自分のものにしてやるという意識だった。自分は若いころに助言を煙たがることもあったので、彼のそうした資質を驚きの目で見ていた。サッカーをやり始めてまだ右も左も分からない子供が助言を聞くような取り入れ方だったので。あそこまで徹底してやる選手を見たことがない。

 ――岡崎は3大会連続のW杯出場を目指しているが、現在でも貪欲な姿勢は変わらない

 佐藤氏:たとえば彼は日本の情報をすごくチェックしている。Jリーグの試合の映像も多く見ていて「このシュートがすごかった」とか僕も把握していないようなことまで知っていたりする。サッカーを24時間考えて、自分の目標から逆算してやっている。この前は「限界を感じるのは個の弱さ」という話をしていた。協調性や戦術は日本人はたけているけど、レスターの中で一人の選手として見たときに実力が乏しいと。そこでまた意識を強くしているのでは。

 ――改めて、岡崎という選手の強さとは

 佐藤氏:僕は清水時代の彼の“日陰”の部分も知っているけど、そういうときこそ人間の真価が問われる。そのときのパワーが彼は異常だった。必死だから今も人生を置きにいっていないし、今後どのようなプレーを見せてくれるのか楽しみだ。

 ☆さとう・ゆきひこ 1976年5月11日生まれ。静岡県出身。清水商高で第72回全国高校サッカー選手権優勝など活躍し、95年に清水入団。98年に当時JFLの山形に期限付き移籍すると才能が開花し、その後完全移籍したFC東京で99年にナビスコ杯のニューヒーロー賞、2001年にはJリーグ優秀選手賞にも選ばれた。同年に日本代表候補にも初選出。03年には岡田武史監督率いる横浜Mに移籍して2連覇に貢献した。精度の高いクロスと端正なルックスで“和製ベッカム”と称された元祖イケメンJリーガー。