サッカーのJリーグは9日、4日に行われた浦和―鹿島(埼スタ)で侮辱的な発言をしたJ1浦和のDF森脇良太(31)に対し、2試合の出場停止処分を決定した。試合中に森脇が鹿島MFレオシルバ(31)に対し「くせえんだよ」と差別的な発言をしたと同MF小笠原満男(38)が主張し大騒動に発展。Jリーグは差別的意図を認定しない一方、実際の処分は異例の“厳罰”となった。森脇が「子供じみた言葉」で出場停止にまで追い込まれた背景とは――。

 今回の騒動は、試合中に小競り合いとなった際、浦和の森脇が「くせえんだよ」と言い放ったことが発端だ。鹿島の小笠原はチームメートのレオシルバに対する差別的な発言と猛反発。一方の森脇はツバを飛ばした小笠原に向けて言ったものと否定し、その発言の意図が争点になっていた。Jリーグの黒田卓志フットボール本部長は「(両者の主張に)相違があった。そこについては確認できなかった」と説明。発言を向けた相手までは特定せず、差別的な意図に関しても認定しなかった。

 それでも発言が「不適切で侮辱にあたる」と判断し、森脇には2試合の出場停止処分が下された。これが最終決定となり、森脇は14日の新潟戦(デンカS)と20日の清水戦(埼スタ)で出場停止となる。

 処分決定を受け、森脇はさいたま市内のクラブハウスで会見を行った。黒のスーツ姿で現れ、深々と頭を下げて「多くの方々にご迷惑をおかけして、心からおわびしないといけない。鹿島アントラーズのみなさん、小笠原選手とレオシルバ選手に対し、不快な思いをさせたことを心から反省しております」と神妙な面持ちで謝罪した。

 ただ、小笠原はレオシルバに対して差別的な発言があったと主張している。それがあたかも“既成事実”となりつつある現状に「差別的な発言、行動はなかったとみなさんに伝えていきたい。今、『差別の森脇だ』と世間では理解されているけど、そういう発言はなかったとみなさんに理解していただければ」と切実に訴えた。「うそをついて生きてきた人生ではない。(自らの主張に)全くもってうそはない」と重ねて語り、差別的な意図については強く否定した。

 実際、Jリーグでは今回の件に関して「くせえんだよ」という発言のみを侮辱的として処分した。とはいえ、Jリーグの試合では選手がエキサイトした際に勢いあまって暴言を吐くケースは珍しくない。選手間でも「ぶっ殺すぞ」「やんのか」などと相手選手に対する恫喝まがいの言葉が飛び交ったり、審判に対しても「金もらってんだろ」と侮辱的な発言を放つ選手までいる。

 そうしたなか、「くせえんだよ」だけで2試合の出場停止は異例とも言えるが、“厳罰”の背景にはいったい何があったのか。

 今季のJリーグでは、J1G大阪のサポーターが4月16日のC大阪戦でナチス・ドイツの親衛隊(SS)マークに似た応援旗を掲げたり、J2徳島のDF馬渡和彰(25)が同29日の千葉戦でボールボーイを小突き、試合後に徳島サポーターが別のボールボーイに液体をかけるなど前代未聞の騒動が頻発。相次ぐ不祥事により、Jリーグはファンやサポーターなど世間から向けられる目が厳しくなっていると危機感を募らせており、「子供じみたケンカ」と見られた今回の件でも厳格な姿勢で対処したのだ。

 風紀の引き締めに乗り出したJリーグ。選手にはより一層の自覚が求められそうだ。