元日本代表MF中村俊輔(38)のJ1磐田入りには、もう一つの理由があった。横浜Mの象徴的な選手でありながらもチームの方針を疑問視。日本代表時代の先輩だった名波浩監督(44)から熱烈オファーを受けて磐田に移籍した。開幕に向けて現在は合宿地の鹿児島で順調に調整を進めているが、実は数年後の現役引退を見据えて“監督修業”をにらんだ磐田移籍でもあったという。

 愛着ある横浜Mが業務提携するシティー・フットボール・グループの意向に沿った方針を進めることに不信感を募らせ、苦渋の決断で磐田に移籍したが、鹿児島キャンプでは期待通りの存在感を発揮している。チームメートとの連係も深まり、日本代表MF清武弘嗣(27)が復帰したC大阪との開幕戦(25日)に向けて調整は順調だ。

 俊輔は昨季13位でJ1残留を果たした磐田をどこまで押し上げられるかにフォーカスしている一方、かねて引退後の選択肢に挙げる指導者への“修業”も意識している。「それで(磐田に)来たわけじゃない」とした上で「自分とプレーしたことがある方が指導者に多くなっている。そういう方の下で1回やってみたいと思っていた。名波さんは、どんなミーティングをやって、どうメンタルをケアして、クラブのマネジメントとかどうやっていくのかも興味ある」と語った。

 6月24日に39歳の誕生日を迎える。40歳をひと区切りとしている俊輔にとって、そう遠くない現役を退くタイミングを前に、名波監督の仕事ぶりを間近で感じるのは大きなメリットだった。特に現役時代は、同じ日本代表10番を背負った左利きの司令塔。似たようなタイプの先輩から、指揮官の極意を学ぶには最適なクラブだったのだ。

 古巣の横浜Mは、井原正巳氏(49=J2福岡監督)や三浦文丈氏(46=J1新潟監督)らかつて活躍した功労者が指導者として「戻ってくることはなさそう」(俊輔)と嘆いていただけに、なおさらだ。シティー・グループの意向で外国人指導者がチームを指揮しており、俊輔が望むような環境ではなかった。

 すでに日本サッカー協会のB級ライセンスを取得。磐田移籍は、引退後を含めたサッカー人生を充実させるには理想に近い環境だった。まずは現役選手としてチームに貢献するつもりだが、“将来の名将”に向けても大きな一歩を踏み出したと言えそうだ。