サッカーのクラブ世界一を決めるクラブW杯準決勝が14日に大阪・吹田スタジアムで行われ、開催国代表でJ1王者の鹿島が南米代表ナシオナル・メデジン(コロンビア)を3―0で破り、日本勢として初の決勝進出を果たした。アジアのクラブとしても初の快挙を達成したが、勝敗の分かれ目となったのが、今大会導入されたビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR=ビデオ副審)の存在。誤審撲滅の第一歩となり得る半面、競技の面白みが失われてしまうとの声も。サッカーがサッカーでなくなる時がやってくるのか――。

 ついにサッカーの歴史が変わった。前半28分に鹿島MF柴崎岳(24)がFKをペナルティーエリア右に蹴り込むと、DF西大伍(29)とナシオナルFWベリオが交錯し、両者ともに転倒。プレーは続けられたが、2分後にハンガリー人のカサイ主審が突然、笛を吹いてプレーを中断した。

 すぐにピッチ横に設けられたVARのモニターをチェックすると、鹿島にPKを与える判定。これに不満顔のナシオナル側は主審に詰め寄り、鹿島選手にも戸惑いの表情が浮かんだが、大型ビジョンに流れたリプレーではベリオが西の足をかけて倒したシーンがはっきりと映っていた。

 このPKをMF土居聖真(24)が押し込み、リードした鹿島が試合の流れをつかんだ。後半に2点を追加しアジア勢初の決勝進出の快挙につなげた。西は「ファウルでしたよ。線審(副審)に最初確認したときは『(反則は)ない』と言われた」。ナシオナルのルエダ監督は「(PKで)我々の秩序が乱れた。非常に苦い思いをしている」と判定に渋い顔だった。

 国際サッカー連盟(FIFA)は今大会からVARを主催大会で初導入。スタジアム内に23台のモニターを置いた部屋を設置し、レフェリー3人とアシスタント3人がチェックする体制となっている。VARはレッドカードの提示やPKなど試合結果を左右する事象をチェックし、誤った判定の場合に無線で審判団に伝える。それがPK判定までタイムラグがあった理由だ。

 VAR導入については、ルールを決定する国際サッカー評議会から一度は否決されたが、FIFAのジャンニ・インファンティノ会長(46)の“鶴の一声”で導入。誤審を防ぐのが目的だが、米プロフットボールのNFLやテニス、レスリング、プロ野球など多くの競技で活用されている。だがサッカーにはそぐわないという声は多い。

 元日本代表FW武田修宏氏(49=本紙評論家)も「これでいいのか、という思いはある」と率直な感想を口にし「誤審を含めてサッカーなのであって、プレー中に判定が覆ることには抵抗がある。実際、これで試合の流れは変わった。鹿島はリードを奪えば強いチームだし、南米のチームは追いかける展開になると焦りが目立ち、力を発揮できない。タラレバだけど、あそこで点が入っていなければ結果は違っていたかも」と解説した。

 サッカーは“誤審の歴史”でもある。武田氏は「もしVARが昔にもあったらマラドーナの“神の手”もなかったし、韓国のW杯ベスト4もなかった」。1986年メキシコW杯準々決勝イングランド戦でアルゼンチン代表FWディエゴ・マラドーナのゴールは、左手で決めたため、本来ならノーゴール。2002年日韓W杯で韓国代表はアジア勢初の4強入りを決めたが、決勝トーナメント1回戦イタリア戦と準々決勝スペイン戦は誤審の連続。韓国に有利なジャッジばかりで世界中から非難を浴びた。

 今後、インファンティノ会長は18年ロシアW杯でのVAR導入を目指している。誤審がなくなるのは喜ばしいことだが、サッカーの魅力が減る危険性もある。今回の鹿島の快挙は、多くの意味でサッカーの歴史を変えたのかもしれない。