日本代表は29日、ロシアW杯アジア2次予選シリア戦(埼玉スタジアム)に5―0で勝利。グループ1位で、9月から始まる最終予選に駒を進めた。注目は不振が続いたMF香川真司(27=ドルトムント)。2得点1アシスト、4得点に絡む大活躍で10番の存在感を見せた。バヒド・ハリルホジッチ監督(63)が不安視したトップ下争いでも大きくリードしたが、安心はできない。兄貴分であるFW大久保嘉人(33=川崎)が「今後の不安」を指摘したのだ。

 先制点となるオウンゴールを誘発した香川は1点リードで迎えた後半21分、パスを受けると体を反転させる華麗なボレー弾でゴールを奪った。41分には左クロスでFW本田圭佑(29=ACミラン)の得点をアシスト。45分には自身2点目を決めて国際Aマッチ通算25ゴール目とし、同24得点の“先代背番号10”であるMF中村俊輔(37=横浜M)超えを果たした。

 2016年に入ると不振に陥り、所属のドルトムントで出番を失った。なかなか調子が戻らず、パフォーマンスも下降線をたどった。ハリルホジッチ監督も「向こう(ドルトムント)ではレギュラーを奪えていない。そしてA代表でも奪えるか、まだ分からない」と突き放した。さらにはMF清武弘嗣(26=ハノーバー)、MF原口元気(24=ヘルタ)とのトップ下のポジション争いを命じ、10番は代表でも苦境に立たされた。

 しかし、この日の活躍で指揮官から受けた屈辱の低評価を払拭するとともに、ライバルたちとのポジション争いでも大きくリード。ゴール後に珍しく興奮した香川は「ホームであまりゴールを決めていなかったので、結果として決められて良かった」と安堵の表情を見せた。

 W杯最終予選に向けて10番の復活は何よりの好材料だが、このまま完全復活となるかは、まだまだ分からない。香川の兄貴分で“相談役”でもある大久保は、今後もイバラの道が続くことを予測する。

「頑張るしかないけど、今日の(日本代表の)試合で活躍しても、チーム(ドルトムント)の結果が出るか分からない。帰ったら帰ったで、違う立場になるんだから」

 大久保には、かつてマジョルカ(スペイン)やボルフスブルク(ドイツ)でプレーした際に、日本代表で活躍してもクラブでのポジション定着に直結しなかった経験がある。いくら調子を取り戻し、パフォーマンスが向上しても、役割の違うクラブはまた別物。後輩の活躍は喜ばしい半面、安易に「復活」という考えはできないというわけだ。

 となれば、強豪国と対戦するW杯最終予選に向けて事態は深刻。ドルトムントで出番が増えなければ、コンディション悪化も懸念される。実際に、マンチェスター・ユナイテッド(イングランド)所属時には出場機会を失い、プレーも大きく低迷。2014年ブラジルW杯ではスタメンを外される試合があったほど不調にあえいだ。

 自身が置かれた厳しい状況を香川は理解している。ドイツでの今後について「レベルは高いけど、結果を出さないといけない。競争は厳しいけど、やり続けないといけない」と危機感を募らせる。自身の言葉を現実のものにできるか。その成否に日本サッカー界の未来がかかっていると言っていい。