痛すぎる――。なでしこジャパンは2日、サッカー女子・リオデジャネイロ五輪アジア最終予選(大阪)の韓国戦に1―1と引き分けた。2試合を終えて勝ち点1。自力での五輪切符獲得が消滅し、敗退が現実味を帯びてきた。可能性はまだ残されているとはいえ、このまま4大会連続出場を逃すことになれば、女子サッカー衰退へとつながる非常事態。それだけではなく、日本サッカー協会には莫大な“損失”をもたらすことにもなり、まさに崖っ縁に追い込まれた。

 0―0で迎えた後半24分にDF近賀ゆかり(31=INAC神戸)がペナルティーエリア内で痛恨のハンドを取られPKを献上した。これをGK福元美穂(32=岡山湯郷)が好セーブでしのぎ、失点を阻止。流れを呼び込むと、後半39分にFW岩渕真奈(22=バイエルン・ミュンヘン)が頭で合わせて待望の先制点をもたらした。

 しかし、その3分後にミスから同点に追いつかれ、そのまま試合終了。目の前にあった勝ち点3を逃してしまった。初戦オーストラリア戦(2月29日)の黒星に続く痛い引き分けで、2試合で勝ち点はわずか1。残り3試合を全勝したとしても勝ち点10までしか伸ばせず、2枠しかない五輪出場は“他力”でしかかなわないという厳しい状況に追い詰められた。

 まさかの事態に、日本サッカー協会の田嶋幸三副会長(58)は「追いつかれたが、まだ次につながっていると思うしかない」と厳しい表情で語った。佐々木則夫監督(57)については「いろんなシチュエーションを考えている。あとは任せるだけ」と、改めて信頼を強調した。

 出場権獲得の可能性は残るものの、予選敗退の危機は事実。仮に現実となれば“悪夢のシナリオ”が待っている。2011年のドイツ女子W杯優勝に続き、12年ロンドン五輪銀メダル、15年カナダW杯準優勝と結果を残してきたが、五輪を逃せば、かつての「マイナー競技」だったころに逆戻りしてもおかしくない。ドイツW杯優勝で国民栄誉賞も受賞しているだけにその反動で“期待値”の大幅な低下は避けられず、20年東京五輪に向けて金メダルの期待もしぼんでしまう。

 それだけではない。日本サッカー協会の“実入り”も激減するという。ある協会関係者は「なでしこは(五輪に)行けると思われていたけど、わからなくなってきた。もし出られなかったら、壮行試合もなくなるし、入ってくる予定のもの(収入)は確実になくなるでしょう」と話した。

 五輪本番に向けて予定していた3~4試合の国際親善試合の開催がなくなれば、入場料、テレビ放映権料、スポンサー料で見込んでいた約5億円の収入が「0」に。またレプリカユニホームや関連グッズなどの売り上げにも大きく影響するのは必至だ。さらになでしこジャパンの露出激減でスポンサーのキャンペーン展開もなくなる。宣伝効果などの余波も加えれば、推定15億円もの“損失”となりかねないのだ。

 出場を逃せば「最大30億円」とされた男子の五輪代表(本紙既報)に比べると“損失”の額は小さいが、なでしこジャパンの場合は苦難の「マイナー競技」時代を経てきており、「15億円」が与えるダメージは想像以上に大きい。収入が減れば、今後の女子サッカーへ割り当てる予算縮小も考えられる。五輪予選敗退の波紋は大きく広がっていくだろう。

 なでしこジャパンは土俵際で“奇跡”を起こせるのだろうか。