【カタール・ドーハ17日(日本時間18日)発】エースが“温情起用”への違和感を吐露した。サッカー男子のリオ五輪アジア最終予選を兼ねたU―23アジア選手権で日本はタイ戦(16日)に4―0で勝ち、グループ1位で準々決勝(22日)進出を決めた。五輪切符獲得へ一歩ずつ進むなか、心配なのはエースのMF南野拓実(21=ザルツブルク)だ。1次リーグ2試合連続で無得点。指揮官とチームメートはそんなエースに得点を取らせようと動いたが、本人の受け止め方は全く違っていたようで…。

 初戦の北朝鮮戦(13日)では機能しなかった攻撃陣がタイ戦では奮起した。FW鈴木武蔵(21=新潟)が1ゴールを挙げ、FW久保裕也(22=ヤングボーイズ)は2得点を叩き出す活躍。点を取るべき選手がしっかりと仕事をしたが、肝心のエースがなかなか目覚めない。南野は後半33分から出場して無得点。先発した北朝鮮戦でも結果を残せておらず、2戦連続不発となった。

 とはいえ、エースがピッチに立ったときにはすでに勝敗は決していた。あえて投入しなくてもいい状況だったが、手倉森誠監督(48)によれば「ゴールを決めて勢いに乗ってほしいし(U―23代表の)活動期間が短い分、コンスタントに使ったほうが決勝トーナメントにつながる。(16日が南野の)誕生日だからってわけではないけど」。

 エースが得点すれば、決勝トーナメントの戦いに向けてチームの勢いが加速する。気分良く次のステージを戦うための戦略でもあったが、この采配に南野は異なる見解を示した。

「僕は特別視されているわけではなく、チームの一員なので、それ(ゴールを取らせること)を考えた起用法というよりも試合に勝つための起用法だったと思っている。僕もそのつもりでピッチに入った。ゴールを取って勢いづくのは個人として重要ですけど、そういう考えでなくチームが勝つためにピッチに入った」

 もちろん、指揮官の意図と“温情”は十分に理解している。自らもノドから手が出るほど点を取りたい気持ちがあった。しかし、得点を取るために“お膳立て”された状況は本当にチームのためになるのか。そこに疑問を感じているのだ。

 さらに、ピッチ上の選手たちが自身にボールを集めてくれたことにも違和感を持つ。普段通りのプレーを続ければ、さらなる大量得点の可能性もあった。だが実際は、南野のゴールを求めるあまり、つくり上げてきたチームのバランスが崩れる恐れもあるほど無理な攻撃を展開した。こうした“油断”が五輪切符獲得にも影響しかねない。サウジアラビア戦(19日)でも同じ傾向が続けば、なおさらだ。

 自分のためにチームの良い流れを壊したくない…。エースの心境はそういったところだろう。

 チームの勝利を第一とする姿勢は当然ではあるが、これからもあくまでチームの一員として“自力”でゴールを目指していく。南野は「あくまでチームの勝利が大事ですけど、そのなかで、プラスに働く気持ちの持ち方をしていきたい」と改めてゴールに対する意欲を語った。

 すでにグループ1位突破を決めて19日は消化試合となるが、決勝トーナメントへ向けてエースは周囲に“温情”をかけられないようなプレーを見せられるか。