【なでしこジャパンの光と影】チーム崩壊の危機に直面した「ソウルの夜」「反ノリオ集会」

2015年07月08日 06時00分

【なでしこジャパンの光と影(上)】波瀾万丈の戦いが終わった。カナダ女子W杯決勝(5日=日本時間6日)でなでしこジャパンは米国に2―5で敗れ連覇ならず。日本中がため息に包まれたが、直前まで調子が上がらず苦戦必至といわれたなかでの銀メダル獲得で前回女王の意地を見せつけた。激闘の舞台裏では、チームにいったい何が起こっていたのか。本紙では緊急連載「なでしこジャパンの光と影」(全3回)がスタート。第1回はチーム崩壊の危機に直面した「ソウルの夜」の真相に迫る。それは“反ノリオ”から始まった――。

 2013年7月27日。韓国・ソウルの宿舎で遅い夕食を終えた5人の選手が、険しい表情でその場に残った。主将のMF宮間あや(30=岡山湯郷)、FW大野忍(31=INAC神戸)、GK福元美穂(31=岡山湯郷)、MF安藤梢(32=フランクフルト)、カナダW杯のメンバーからは外れたFW丸山桂里奈(32=大阪高槻)。食堂で自然と「なでしこ将来会議」が始まった。

 この日まで行われた東アジアカップで、なでしこジャパンは最終戦で韓国に1―2で敗れ、3連覇を逃した。MF澤穂希(36=INAC神戸)は左足首の故障でメンバーに選出されず、若手選手のテストの場だったとはいえ、選手間の連係は最悪。なでしこ特有の粘りもなければ、選手のモチベーションもバラバラ。さらに、佐々木則夫監督(57)の発言で選手の士気は落ちていた。

 韓国戦後の全体ミーティングに深刻な表情を浮かべて現れた指揮官を見て、ほとんどの選手が異様な雰囲気を感じた。
「もしかしたら監督を辞めると言いだすのでは」。だが、現実は違った。それどころか「負けたのを選手のせいにした。ああいう場面でどうして点が取れないのか、とか言いだして。ベンチワークにもすごく疑問が残る大会だったのに、そこには触れなかった」(ある選手)。特に前年のロンドン五輪を経験している選手たちの不信感は募る一方だった。

 そうした状況を踏まえたうえで始まった5人だけのミーティング。あらゆるところで話し合いを頻繁に行うなでしこジャパンでは、男子代表チームでターニングポイントになる「○○の夜」といった特別な会合は存在しない。だが、この時の「ソウルの夜」はなでしこの進路を大きく左右するものとなった。

 この席で、宮間はうっすらと涙を浮かべながら悩みや不安をすべて打ち明けた。他の4人は「私たちは最後まであやを支える」で一致。「ロンドンに行っていない選手との間に気持ちの溝がある。監督には期待してはいけない。だったら、あやがやりたいようにやればいい」と宮間が“現場監督”となることを決議した。

 それ以降、若手選手発掘や育成が進まない佐々木監督を尻目に、宮間はW杯から逆算した行動をとるようになった。エースのFW大儀見優季(27=ボルフスブルク)とは世界と戦える戦術の研究を重ね、代表歴が少ない選手とは宮間が直接会談し、コンセプトを伝えた。澤の不在時に守備的MFにコンバートされても監督に直接意見するのではなく、試合中にプレーの流れでトップ下に移動して「適正ポジション」をアピール。

 周りの選手も“宮間監督”の意図に従って動き、カナダW杯で戦えるチームづくりを進めていった。

 当初は澤不在を想定したやり方も練っていた。だが最後の最後で佐々木監督が澤の代表復帰を決断し「宮間ジャパン」の骨格は固まった。あとは香川・丸亀、長野、千葉と続いた国内合宿とカナダ入りしてからの練習でチームを完成させるだけだった。

 惜しくもW杯連覇の夢はかなわなかった。しかし、一時は崩壊の危機に陥ったチームを立て直したのは宮間の功績。「ソウルの夜」は確実になでしこの運命を変えた。