なでしこ岩渕「劇弾」の裏に3人の“恩人”

2015年06月30日 06時00分

【カナダ・エドモントン発】カナダ女子W杯準々決勝(27日=日本時間28日)でなでしこジャパンはオーストラリアを1―0で下し、2大会連続の準決勝進出を決めた。チーム最年少のFW岩渕真奈(22=バイエルン・ミュンヘン)が後半42分に値千金の決勝ゴール。ケガを乗り越え、前回大会やロンドン五輪で味わった悔しさもすべて吹き飛ばす一撃だったが、この活躍の裏には3人の“恩人”がいた――。

 チームメート全員が待っていたゴールだった。延長戦突入も頭をよぎり始めた後半42分、主将のMF宮間あや(30=岡山湯郷)の左CKからのこぼれ球をMF宇津木瑠美(26=モンペリエ)がつなぎ、混戦の中から必死に出したDF岩清水梓(28=日テレ)のパスを岩渕が右足で蹴り込んだ。「素直にうれしい。ここまで連れてきてくれたチームにまずは感謝したい」と殊勲弾を喜びながらも、佐々木則夫監督(57)の“最終決断”に感謝の言葉を口にした。

 今年2月、クラブでの練習中に右ヒザを負傷。それでもW杯メンバーに選出した佐々木監督は「W杯の決勝トーナメントのタイミングで戻ってくれればいい。彼女にもそう伝えたし、今回の彼女からは何かやる予感がするから」と大きな期待をかけていた。それに応え、4強がかかる大一番でW杯初ゴール。指揮官の予感が本物だったことを証明した。

 岩渕には「感謝してもしきれない」という“恩人”がいる。まずは2011年ドイツW杯優勝メンバーで昨年現役引退した元日本代表GK山郷のぞみさん(40)。岩渕はドイツ大会1次リーグ初戦のニュージーランド戦で後半途中から出場し、宮間の決勝点を演出するFKを獲得した。だが、出場直前までウオーミングアップをしなかったことが山郷さんの目に留まり、試合後に厳しく説教された。

「あの時は私がガキだったんです。先輩たちについていくだけで、試合をやるっていう感じがなかった。だから山郷さんに怒られたのは当然だし、山郷さんの言葉がなかったら私はまだ甘いままだった。山郷さんは準備の大切さを教えてくれた」と当時を振り返る。岩渕は山郷さんの現役最後の試合にも足を運んだほどで感謝の念は尽きない。

 前回大会、戦う意識が薄かった岩渕はチーム内で浮いた存在となり、居場所を見つけられなかった。そんななかで迎えた米国との決勝戦。MF澤穂希(36=INAC神戸)のゴールで同点に追いついた後に投入された岩渕は意外な活躍を見せた。

 終了間際、相手のシュートに体を投げ出してブロック。このプレーが宮間の心を打った。「あの瞬間、ブッチ(岩渕)がチームの一員になり、チームが一つになった」。そこから宮間は岩渕に愛情を注ぐようになった。ドイツへの国際電話は日常茶飯事。今年2月にケガをした際も真っ先に電話で励ました。「私をなでしこの一員と認めてくれたのがうれしくて…。宮間さんの優しさに私は救われた」と岩渕は近い関係者に漏らしている。

 3人目はG大阪の日本代表FW宇佐美貴史(23)だ。11年7月にバイエルン入りした宇佐美は、12年7月にホッフェンハイムに移籍。13年1月にホッフェンハイム入りした岩渕はすぐに宇佐美、さらに蘭夫人(23)と意気投合し、たびたび宇佐美家にお邪魔した。岩渕は自身のブログで「ドイツでの時間は短い間だったけどかなり濃い時間でした。たぶんみなさんの想像以上にお世話になってました」と明かしている。

「私は代表での得点が多くないから、このチームに貢献できてよかった。次も大事なところで決められる選手になりたい」。日本を歓喜の渦に包んだ“マナドーナ”にとって準決勝で対戦するイングランドは、岩渕が大会MVPを獲得した08年U―17W杯準々決勝でPK負けした因縁の相手。借りを返すには最高の舞台が整った。