【カナダ・バンクーバー発】ノリオの「賭け」が当たった。8日(日本時間9日)に行われたサッカー・カナダ女子W杯1次リーグ初戦でC組のなでしこジャパンは同組最大のライバルのスイスを1―0で撃破。連覇に向けて好スタートを切ったが、佐々木則夫監督(57)は一歩間違えれば自身の進退問題にもつながりかねない仰天プロジェクトを進めていた。

 欧州予選10試合で9勝1分け、53得点1失点という圧倒的な内容でW杯初出場を決めたスイス相手に、なでしこジャパンは苦しみながらも勝ち点3をつかんだ。前半29分、体を張ってMF安藤が獲得したPKを、この日で代表通算150試合出場となった主将のMF宮間あや(30=岡山湯郷)が冷静に決めて先制。スイスFWバッハマンの驚異的なスピードとテクニックに翻弄されながらも、守備陣が踏ん張って無失点でしのいだ。

「もう少し冷静に試合運びをすれば楽にできた。それでも勝ち点3を取れたことは、評価に値すると思う」と語った佐々木監督にとっても最高の結果が出た。GKに187センチの山根恵里奈(24=千葉)、右サイドバックにDF有吉佐織(27=日テレ)を起用。時折“ポカ”もあるW杯初出場の2人を先発させた一方、不動の右サイドバックだったDF近賀ゆかり(31=INAC神戸)を外し、前大会のシンデレラガールだったMF川澄奈穂美(29=INAC神戸)もベンチ要員とする大胆采配が実を結んだことの意味は大きかった。

 佐々木監督には今大会に臨むにあたって“裏テーマ”があった。近い関係者に宣言していた「今まで成功しなかった世代交代を今大会中に成し遂げる」というプランだ。

 4年前のドイツ女子W杯後、若手を中心とした多くの新戦力候補にチャンスを与えたが、ドイツ組を脅かす選手はほとんど現れなかった。今回のメンバー選考も年齢に関係なく、直近の試合で好調な選手を厳選。MF澤穂希(36=INAC神戸)を筆頭にベテランに頼る形となった。だが、それだけでは過酷なW杯を勝ち進めないと自覚する指揮官は、チームに刺激を与えるために“ショック療法”を画策。それが、大会初戦での「主力外し」につながったのだ。

 男子の2010年南アフリカW杯で日本代表を率いた岡田武史監督(58=FC今治代表取締役)は、直前の親善試合でGK楢崎正剛(39=名古屋)を外してGK川島永嗣(32=スタンダール)を抜てきし、主将もDF中沢佑二(37=横浜M)からMF長谷部誠(31=Eフランクフルト)に代える荒療治を行った。佐々木監督はこの手法に着目し、大会期間中にチームを成長させながら再び頂点に立つという青写真を描いた。

 ただ、これは一歩間違えれば自身の進退問題にも発展しかねないもの。ただでさえ、今大会で惨敗するようなことがあれば、日本サッカー協会の女子委員会では佐々木監督の更迭も選択肢の一つに挙げられていた。それでも、指揮官は自分の主義を通した。その結果、無失点で勝ち切り、不安視されていた山根に対しては「やっとこの日が来た」と活躍に胸を張った。

 大胆な主力外しで大事な初戦を突破。W杯連覇を目指すなでしこジャパンはこれからどんな変貌を遂げるのか。