海外移籍を目指す日本代表FW武藤嘉紀(22)を巡って12日、“ドタバタ劇”が展開された。イングランド・プレミアリーグの強豪チェルシーからオファーを受けている武藤が一部でドイツ1部リーグ・マインツと基本合意したと報じられたが、所属のFC東京側はこれを否定。チェルシーにも断りを入れておらず、本人の決断待ちの状況に変わりはないという。舞台裏を探ると、今回の騒動はマインツ側の切迫した事情が絡んでいるようだ。

 武藤に関してはチェルシーがすでに正式オファーを出しているが、ドイツからマインツも獲得レースに参戦。FC東京との間ですでに移籍金や年俸など条件面の下交渉は行われていた。

 そうした中、12日に一部でマインツとFC東京がクラブ間で合意したと報じられた。ところが、FC東京の大金直樹社長(48)が報道陣に対応し、クラブ間合意を否定。移籍問題の結論は「まだ決まっていない」と話した。前日(11日)に日本代表バヒド・ハリルホジッチ監督(62)がチェルシー行きに反対を表明したこともあってチェルシーは断ったとの報道もあったが、こちらも断っていないという。

 武藤は依然として判断を保留しており、13日まで行われる日本代表候補合宿が終了した後に大金社長らクラブ幹部と話し合いが持たれる予定だ。

 マインツが移籍先の有力候補であることは確かだが、合意に関しては“勇み足”となった今回のドタバタ劇。その引き金となったのは、どうやらマインツのようだ。

 欧州に顧客を抱える代理人事務所の関係者はこう指摘する。「マインツは岡崎(慎司=29)からも情報を仕入れて非常に高く武藤の実力を評価している。すぐにレギュラーとして計算しているほどで、なんとしても獲得したいと考えている。でも今、武藤の評価はうなぎ上りでリストアップするクラブが次々と出てきている。それに焦って、早く移籍を既成事実化させたかったのではないか」

 マインツはエースストライカーの岡崎の去就が流動的な事情もあり、今夏の補強はFWを優先的にリストアップ。まずは武藤のポテンシャルに白羽の矢を立て、早い段階から獲得に向けた準備を進めてきた。

 しかし、今季もJリーグでゴールを量産する武藤の評判は欧州各国で広まり、今やすっかり“人気銘柄”に。名門チェルシーからのオファーでさらにその名が知れ渡ることになり、今ではドイツやイタリア、スペイン、フランスなど強豪リーグの多くのクラブから関心を寄せられるモテモテぶりだ。

 地方クラブのマインツは資金力に乏しいため、マネーゲームになれば不利。プレー環境なども含めて今後魅力的なオファーに至るクラブが続出すれば、それこそ勝ち目はない。そこで意図的にある程度の情報を操作することで、交渉を有利に進めようと画策。つまり、駆け引きの一環だったというわけだ。

 武藤はこの日から日本代表候補合宿(千葉県内)に参加。ミニゲーム中に右ヒザを打撲し、アイシングなどの治療を受けて報道陣に対応することなく引き揚げた。今後に大きな影響はなさそうだが…マインツの“策略”はこのまま奏功するのか。それとも大ドンデン返しが待っているのか。いずれにしろ決着は近そうだ。