日本代表入りを狙うG大阪のエースに異例の指令だ。6日のJ1徳島戦を引き分けたG大阪は、9年ぶりのリーグ優勝を果たした。ナビスコカップVに続く2冠を達成。なかでもエースFW宇佐美貴史(22)はチームの躍進に大きく貢献した。一方で待望されるアギーレジャパン入りには大きな課題が突きつけられたままだが、G大阪の野呂輝久社長(60)が意外なゲキを飛ばした。

 Jリーグ優勝を勝ち取ったG大阪の原動力となったのは、10ゴール8アシストと獅子奮迅の活躍を見せた宇佐美だ。名門バイエルン・ミュンヘンなどドイツ時代の経験を飛躍のきっかけに挙げて「メンタリティーが変わった。普段の過ごし方、人との接し方、プレーもそう」と、自らの成長を実感している。

「3冠」に王手をかけた今季のパフォーマンスは見事というほかない。切れ味鋭いドリブルに抜群のシュート力を発揮し、非凡な才能を開花させた。だが一方で、期待される日本代表入りは、なかなか果たせずにいる。

 もう一皮むけるために何が必要なのか。野呂社長はこう断言した。「たとえばテストがあって5教科全部そこそこの点を取る人もいるけど、宇佐美はそんな必要はない。得意教科を伸ばせばいいんです。中盤に下がって守備をするときもあったけど、とにかく前にいてナンボ。前にいて点を取る、あの攻撃力を磨くことだけを考えるべきだ」

 アギーレジャパンが誕生後、活躍しながらも代表から声がかからない状況が続いた。周囲からは守備への貢献度の低さや、スタミナ不足を指摘する声が続出。クラブOBで元日本代表DFの宮本恒靖氏(37)も「攻守両面でチームを助け、コンスタントに90分やれれば」と注文をつけた。

 だが、こうした意見を意識するあまり宇佐美は、第26節から7試合連続ノーゴールと不振に陥った。苦しむ姿を目の当たりにした野呂社長は「代表にいる武藤(嘉紀=22、FC東京)と比べられることもあるけど、宇佐美は宇佐美。スタイルを変える必要はない」と同級生のライバルの名前を挙げて持論を展開した。

 弱点を克服するよりも、持ち味である得点力を強化し、ゴールを量産し続ける。ストライカーは“エゴイスト”にならなければ、と説く。「たとえ目先のアジアカップ(来年1月、オーストラリア)は選ばれなくても、それを続ければいつでも日本代表に入れることは間違いないし、必ずロシア(W杯)のピッチにいる」(野呂社長)

 宇佐美も苦悩を経て迷いを吹っ切った。「まだまだ得点は少なくて理想からは程遠い。自分の理想の40~50%の貢献度。1試合1点は取らないと」と高いハードルを課し、ゴールへの執着を強くした。古巣に呼び戻してくれた恩義ある野呂社長からの“金言”で、天才が進化を続けるはずだ。