サッカーなでしこジャパンの守護神でもある日テレGK山下杏也加(25)が15日、ライバルチームのINAC神戸に電撃移籍した。今オフは秋に開幕する女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」に向け、新規参入する大宮、広島を含め、有力選手の移籍が相次いでいるが、山下が日テレを離れるのは他クラブ関係者からも驚きの声が上がった。

 山下は日テレの公式ホームページにメッセージを掲載し「ベレーザは代表選手が当たり前のようにいて、妥協せずいつも高い意識の中でサッカーをしてる姿を肌で実感し、言葉だけではなくプレーで学ぶことも多かったです。選手としての成長はもちろん、人間的にも成長できたのは支えてくださった皆様のおかげです」などとつづった。ステップアップに向けた前向きな移籍のようにも映るが、今回の裏で〝ある事件〟との関連が指摘されている。

 関係者の話を総合すると、問題の事件が起こったのは昨年11月21日、なでしこリーグ最終戦の愛媛戦。前半を0―0で終えたハーフタイムに先発出場していた山下が永田雅人監督(47)に訴えた。

「このディフェンスラインを替えてください」

 だが、指揮官は無失点で踏ん張った守備陣に問題はないとし、山下にこう返した。

「わかった。じゃあ、お前を外す」

 このやり取りを聞いた一部の選手はパニックになり、泣き出す者もいたという。だが、永田監督は山下を前半だけでベンチに下げ、20歳のGK黒沢彩乃をピッチに送り込んだ。

 試合は後半15分に先制を許しながらも、同39分、41分とFW遠藤純(20)の連続ゴールで逆転。だが、同アディショナルタイム2分に痛恨のオウンゴールを献上して2―2の引き分けに終わった。

 これでリーグ戦を終えた日テレは皇后杯に臨んだが、初戦の2回戦(12月6日、対日テレメニーナ)、山下の姿はベンチにもなかった。3回戦(同12日、対ASハリマアルビオン)こそベンチ入りしたが、ゴールマウスを守ったのは、この試合の前日に今季限りでの現役引退を発表していたGK西村清花(22)だった。

 その後は全て西村がフル出場し、激しい点の取り合いとなった決勝の浦和戦も4―3で勝利。日テレは皇后杯4連覇を達成し、西村は自ら引退の花道を飾った。そして山下は一度たりともピッチに立つことなく、シーズン最終戦を終えた。

 結果だけを見れば、山下を使わずにタイトルを勝ち取った永田監督の采配が当たった形。山下の今回の移籍もこの〝確執〟がすべてではないかもしれないが、日テレに居場所がないと感じたことは想像に難くない。

 昨季前には絶対エースのFW田中美南(26)がINAC神戸に移籍し、今オフも山下だけでなく、若手有望株のなでしこジャパンMF宮沢ひなた(21)も仙台に移った。他にも離脱者が出そうな雰囲気はある。山下が新天地に選んだINAC神戸にしても10人もの退団者を出した。東京五輪、そして新リーグ開幕を前に日本女子サッカーの勢力図は大きく変わろうとしている。