コワモテ指揮官の意外な一面 オシム監督トイレ“事件”のビックリ真相

2020年05月26日 11時00分

2006年8月、初陣に臨んだオシム監督(左)。右は大熊コーチ、中央は千田通訳

【多事蹴論(3)】2006年ドイツW杯で惨敗した日本代表はジーコ監督が退任し、10年南アフリカW杯に向けて当時、65歳となったイビチャ・オシム氏を新監督に選任した。

 Jリーグで長く低迷していた千葉を上位に押し上げた指揮官で、1990年イタリアW杯ではMFドラガン・ストイコビッチを擁するユーゴスラビア代表(当時)を率いた。準々決勝でディエゴ・マラドーナのいるアルゼンチン代表にPK戦の末に敗れたものの8強入り。あのスペイン1部レアル・マドリードも監督としてリストアップしたほどの世界的な名将として知られる。

 そんなオシム監督が臨んだ注目の初陣は06年8月9日に東京・国立競技場で行われたトリニダード・トバゴ戦。DF三都主アレサンドロが2ゴールを決め、2―0とリードして迎えた試合終盤にオシム監督が突然、動いた。なんと試合の真っ最中にベンチから離れたのだ。極めて異例な事態に満員のスタジアムもざわつく中、指揮官が向かったのはトイレだった。

 日本サッカー協会の川淵三郎会長ら当時の幹部によると、オシム監督は心臓に持病があり、日頃から薬を服用しているという。その影響もあって小まめな水分補給が欠かせないため、練習中でも常にミネラルウオーターのペットボトルを手にしていた。普段から水分を切らさないように協会サイドも気にしていたほどだ。

 さらに、その反動でトイレが近いことでも知られており、代表スタッフは指揮官と行動を共にするとき、どこに行っても用を足せる場所を確認するのが、最初の仕事だったそうだ。それだけに、やむを得ない試合中の珍事として多くのメディアがオシム監督の“生理現象”をクローズアップし「試合中にまさかのトイレ」などと報じたが、実は別の“真相”があった。

 オシム監督がベンチを離れたとき、スタッフの一人がその後を追ってトイレに向かった。入り口からそっと中をのぞくと、代表指揮官は難しい顔をしながら洗面台の鏡の前に立ち、愛用のくしで髪をなでつけ、襟元を直し、自分の顔の角度を何度も変えながら表情を確認していたという。

 当時のチームスタッフは「あんなふう(メディアを意識していないよう)に見えて意外にテレビ映りとかを気にしているんですよ。トイレと言いつつも身だしなみを整えているなんて…。オシムさんらしいです」。勝利を確信した指揮官は、トイレを装いつつも試合後のテレビインタビューに備えて自ら“ファッションチェック”していたのだ。

 いつも仏頂面のこわもてながらもユーモアもあったオシム監督は07年11月、急性脳梗塞で倒れ、志半ばで途中退任となったが、ピッチ内外で規格外の指揮官だった。