9日に埼玉スタジアムで行われた天皇杯決勝はJ1浦和がJ1仙台を1―0で下し、12大会ぶり7度目の優勝を飾った。苦しい船出となった今季だったが、タイトル奪取で来季のアジアチャンピオンズリーグ(ACL)出場権も獲得という大団円で幕を閉じた。

 伏兵の一撃が勝利を呼び込んだ。前半13分、MF宇賀神友弥(30)が相手のクリアボールをペナルティーエリア外から右足でダイレクトボレー。鋭い弾道でゴールネットを揺らしたゴールが決勝点となった。殊勲のヒーローは「あの形は練習はしていた。決められて安心したし、自分で素晴らしいと褒めてあげたい」と自画自賛した。

 今季はリーグ戦開幕から5戦未勝利という最悪のスタート。それを考えれば、天皇杯を制してのACL出場権獲得は上々の締めくくりだ。この結果をたぐり寄せた立役者はDF槙野智章(31)だった。

 最大の功績は、チーム不和の要因となりがちな「控えと先発の垣根」を取り払ったこと。そのキッカケについて「(ロシア)W杯で(試合に)出られていない状況を学ばせてもらったことが財産になっている。チームに戻ってきてその経験を還元したいと思った」と語った。

 どういうことなのか。槙野はバヒド・ハリルホジッチ氏(66)が4月に日本代表監督を解任されるまではレギュラーのセンターバックとして活躍したが、西野朗氏(63)の指揮官就任によってロシアW杯では先発の座を失った。それでも腐ることなく、チームメートとともに一体感をつくり上げたことで決勝トーナメント進出を達成。先発と控え、両方の役割が重要だと心の底から気づかされ「試合に出られない選手に対して歩み寄る行動を心掛けるようになった」という。

 ロシアから帰国するとすぐに行動に移した。目標を見失いがちだった浦和から停滞感を一掃し、ロシアW杯の日本代表のようなムードをつくり上げた。「前半戦には見られなかった『みんなで戦っている』という雰囲気になっていった」と実感。カップ戦に必要な集中力と勝負強さを取り戻し、日本最古のタイトルを掲げた。

 目立ちたがりでパフォーマンスばかりが取り上げられがちな槙野だが、サッカーに傾ける情熱は人一倍。そんな男が気づかせてくれた結束力を武器に、来季の赤い悪魔はアジア王座奪回に向けて再び猛威を振るう。