サッカー日本代表の新エース候補MF南野拓実(23=ザルツブルク)はいかに覚醒したのか。森保ジャパン発足後、3試合連続4得点を決めたアタッカーを小学生時代に指導した「クーバー・コーチング・サッカースクール」の丸野一博コーチ(42)がその原点について語った。南野とともに“三羽ガラス”と呼ばれるMF中島翔哉(24=ポルティモネンセ)、MF堂安律(20=フローニンゲン)も通っていたサッカー版“虎の穴”の秘密とは――。

 南野、中島、堂安をはじめ、DF室屋成(24=FC東京)、FW北川航也(22=清水)、MF三竿健斗(22=鹿島)ら脚光を浴びるスター候補には共通点がある。いずれも同じ「クーバー・コーチング・サッカースクール」で指導を受けた経験があるのだ。南野は小5から2年間、丸野コーチから指導を受けた。

 丸野コーチ“個を育てる”をメインテーマに掲げている。一人ひとりの技術に特化して伸ばす“塾”というイメージになる。ポジションもないし、レギュラーとサブもない。年間を通してプレーヤーとしての“個”を上げるスクールになる。

 多くの選手は大会や試合に出場するクラブに所属しながら、個人の技術力を磨くために「クーバー・コーチング」に通っている。プロ選手を目指す上で必要なテクニック向上を目的としており、まさに“虎の穴”。では、具体的にはどういった指導を行っているのか。

 丸野 ボールコントロールの仕方だったり、ボールを触るフィーリングを身につけ、その後に1対1のテクニックを入れていく。1回80分で、月ごとにテーマをつくり、ボールをコントロール、運ぶ、シュートなど主に1対1で勝負する個人の技術を伸ばしていく。もちろん、守備の部分も練習では必ず入れていく。

 森保ジャパンで飛ぶ鳥を落とす勢いの南野は、大阪・住之江校に兄が通っていた縁で、小3の12月に開校したばかりの岸和田校へ入校。所属するゼッセル熊取と並行して週2回、同スクールで技術を高めた。欧州や日本代表の舞台で質の高さを見せるドリブルやシュートの礎となっている。

 丸野 彼は基本的な考え方としてボールを持ったら自分でゴールを決めるのが第一の選択肢。そして、ボールを奪われてもすぐに奪い返しにいけるのが特徴的だった。技術で言えば、相手とボールの間に自分の体を入れながら運ぶ部分は当時から見られた。キックもうまく、自分が決め切るところまでこだわってやっていた。

 2015年1月に世界進出して以降、コンスタントにゴールを重ねてきた。才能の一端を見せる南野だが、周囲と比較して圧倒的な実力差があるような天才児ではなかった。華麗なプレーでサポーターを魅了する才覚は意外なところにあった。

 丸野 すぐにできるテクニックもあれば、家で練習してきて次にできていることがよくあった。何でもパッとできるというより、できなかったことを自分で考えてしっかりやる。そういう努力型。他の子と比べて器用だったかというと、そうでもなく、それを補うだけの努力があった。

 南野が常に努力を惜しまなかったのは「うまくなりたい」という思いからだが、そうした向上心の根底には負けん気の強さがある。実際にA代表初招集は15年10月。そこから森保ジャパン発足まで約3年間も声がかからなかったが、その間も鍛錬を続けて、代表での躍進につなげた。

 丸野 他の子との違いとしてはすごく負けず嫌い。点を取りたい、負けたくないというのをナチュラルに表現できる。印象に残っているのは、学期の最後にコーチチームとゲームをやるけど「絶対、コーチに勝とうぜ!」と言って、純粋に勝ちたいというのを表に出していた。勝ったときはめちゃくちゃ喜んでいたのは覚えている。

 森保監督の期待も大きいアタッカー。その基礎となっているのは小学生時代から鍛え上げた自慢の個人技なのは間違いない。この勢いのままに日本代表でエースの座を勝ち取るはずだ。

【クーバー・コーチング・サッカースクール】主にサッカーに必要な個人スキルを習得するためのスクールで1対1の局面をメインにした指導を行っている。全世界30か国以上で事業を展開。日本では1995年に初のスクールが開校となり、現在は全国で約150校が活動している。短期キャンプや特別講習も実施しており、2013年2月時点で約2万人の子供たちを指導し、多数の日本代表選手やJリーガーを輩出している。