オートレース界も群雄割拠の時代に突入――。昨年SG3連続Vを成し遂げた鈴木圭一郎の勢いも今年は“小休止”で絶対的な主役不在の状況が続いている。そんななか、今最も乗れているのは浜松の佐藤貴也ではないか。3月、山陽で行われた特別GI「プレミアムカップ」を制して年末の川口SG「SS王座決定戦」のトライアル出場権を一番乗りで獲得。穴党から根強い人気を誇るマイペース男に今年、大ブレークの予感が漂う。

 気分屋でマイペース。周囲から何を言われても動じない強心臓は学生時代に培われた。小学校卒業と同時に米国に渡り、中学時代をアリゾナ、高校時代はカリフォルニア州で過ごし「今の自分」が出来上がったという。

 オフはほとんどレースを見ない。整備やトレーニングも我流。

「この世界に入って仕事方針を変えたこともあったけど、はっきり分かったのは周りを気にしても仕方がないってこと。普段通りに動いて後は結果を待つ。それが何でも一番じゃないですかね。ハハハッ」

 最後の笑い方は独特な“口癖”でもある。激しいレース後であっても、サバサバと豪快に笑い飛ばして前を向いてしまうのがこの男の魅力だ。

 3月のプレミアムC戴冠は劇的だった。初日12Rの選抜戦で浦田信輔と抜きつ抜かれつの攻防を繰り広げ、最後の直線で追い詰めて1着同着に持ち込んだ。好調のまま迎えた優勝戦。初日とほぼ同じような展開に持ち込み、残り1周で再度、浦田をさばいてV。勝負どころを見極めるさばきの精度は絶品だった。

「これまでSG優勝戦で失敗してますからね。あの時の悔しさは忘れてないし、ヘボかった部分が少しは改善されたかな。最後に抜いたところは完全にイケる自信があった。これでもうSGも取れるんじゃないですかね」

 速攻派の代表格でもあるS巧者が、華麗なさばき技で快勝。本人の描く理想像はファンの評価とはやや異なる。

「スタートが早いと思いたいし、そう思われているのはうれしいけど、基本的には追っていくスタイルのほうが好き。追い込みで一番強い選手? 自分じゃないですか。ハハハッ」

 堂々の追い込みナンバーワン宣言と同時に、こっそりとこんな弱点を明かしてしまうのもご愛嬌。「スタートは早いに越したことはないけど、トップスタートを切っちゃうとダメ。1人で走るのがヘタだから、先に行っちゃうとペースが上がらない。競馬でも逃げてる馬が差されてすぐにやり返すようなことはあまりないけど、自分の場合は、なぜかそうなることが多いんですよね。誰か目標があったほうがやりやすいし、理想は2、3番手」と必勝パターンを思い描いている。

 今年こそSGウイナーの仲間入りを果たして、年末の大舞台へ。デビュー14年目で機は熟した。

「SGはいつか取れると思ってるけど、将来的な目標みたいなものは全くないです。自分の技量を考えれば、年がら年中タイトルを取れる動きに仕上げるのは無理がありますから。選手を辞めた時に“ああ楽しいレーサー人生だったな”と思えればそれでいい。アイバーソン流でありたいなと」

 米国で過ごした学生時代はNBAのスーパースター、アレン・アイバーソンの全盛期で「ど真ん中」世代。生きざまに影響を受け、今でも敬愛している。
 そんな偉大な人物が昨年、殿堂入りを果たした時のスピーチにも感銘を受け、プロとしての誇りも学んでいる。 

☆さとう・たかや=1985年2月22日生まれの32歳。静岡県掛川市出身。2004年、浜松デビューの29期。これまで獲得したGIタイトルは3つ(07年の浜松秋のスピード王決定戦、13年と17年の山陽プレミアムC)。現車名はスケートラブ。趣味はスケートボードやアウトドア全般、メジャーリーグ観戦など。同期は金子大輔、青木治親ら。身長161センチ、体重48キロ。血液型=B。