今、ミッドナイト競輪が熱い。ミッドナイト競輪はその名の通り、1R発走が21時過ぎ、最終レースが23時過ぎに設定されたまさに真夜中の大人の社交場だ。通常9車立てで争われるA級1、2班戦も2人少ない7車立てで行われ、車券発売はネット中心、現地には観客を入れずにネットとCS中継で熱戦を配信する。一日の仕事を終え、リビングでビール片手にひと息つきながらの競輪観戦&車券購入は競輪ファンだけではなく売り上げ等の面でも他業種からの注目度も高い。

 現在、ミッドナイト競輪が開催されているのは小倉、前橋、青森、高知、佐世保、玉野の6場。7月からは奈良での開催も決定している。2011年1月に競輪発祥の地である小倉で産声を上げたミッドナイト競輪は全天候型の屋内施設である小倉だからできるとの見方が大半だった。翌年2月、前橋でも開催が始まったがこちらもドーム(※注=現在競輪場は全国に43場。そのうち小倉と前橋の2場のみが全天候型の屋内施設)。ミッドナイト競輪は当初、1日の売り上げは赤字を出さない「6000万円程度あれば」(関係者)御の字くらいの構えだったがいざ始まってみたら8000万円を超える大にぎわい。瞬時にして売り上げ低迷が続く競輪界のドル箱になったのである。

 そこで「ウチでもミッドナイトをやりたい」と声を上げたのが青森県青森市の青森競輪場だった。屋外競輪場なら夜中に無観客とはいえ、打鐘(ジャン)の音が響いたり、こうこうと照明がともったりすれば近隣住民から反対の声が上がらないわけがない。しかし青森競輪場は山の中。近隣に住宅などない。「音や光で山中の野生動物等の生態系への影響を心配する声はありましたが、特に問題はなかったそうです」と語るのは青森市財務部競輪事業所・鳴海雄大所長。12年10月、屋外競輪場初のミッドナイト競輪が青森で行われた。屋外場の青森がミッドナイト開催に踏み切ったことで他場も一気に追従、青森よりは比較的住宅地に近い高知、佐世保、玉野も開催にこぎつけた。

 そして開催場が増えても売り上げは減るどころかうなぎ上り。昨年度(15年度)はついに1日の売り上げ平均は1億円を超えた。

 しかし、ミッドナイト競輪は売り上げ増でも、昼間の開催、特にビッグレースの売り上げは芳しくない。「やはり昼間の開催にはぜひ、お客さまに競輪場へ足を運んでいただきたい。そのためにはミッドナイトがきっかけで競輪を始めたというネット観戦中心のお客様に、例えばですが、中継中に昼間の開催へのツアーを呼びかけるなどしてみたい」(鳴海所長)。競輪公式HPやニコニコ動画などのミッドナイト中継を見ている全国のネット民に「青森競輪場に旅がてら遊びに来てください。抽選で○名様、無料ご招待」などのキャンペーンを打ち、生観戦で競輪の迫力を体感してもらって競輪ファンになってもらえればとの構想を明かす。

 また4月21~23日は史上初のミッドナイト2場同時開催を行った。「小倉さんと売り上げ競争ということではなく、例えばウチ(青森)も小倉さんも6000万円ずつ売れば合計で1億2000万円。1場でやれば1億円なら2000万円分売り上げが多くなり、業界全体としてはいいことになる」(鳴海所長)。売り上げ(詳細は表参照)は2場3日間合計が4億2926万7700円、1日平均約1億4000万円強なら、この初の試みは一応、成功と言っていいだろう。

 競輪事業を行っている以上、もちろん収益を上げなければならない。「競輪は青森市の事業で唯一、お金を一般会計に繰り入れることができる事業」(鳴海所長)でもある。他の事業は税金を使って行われるが、競輪はお金を稼ぐことができる。健全経営の青森競輪だが、2011年度には青森市の一般会計に繰入金を出せなかった。その時は競輪のあり方を検討する会ができ、今後の競輪事業について有識者による話し合いが行われた。そこで出た結論は「競輪事業は繰入金を出せなくても地域経済の活性化や雇用への貢献があり、なくてはならない事業」だった。

 競輪はギャンブル。昔ほどではないにしても、いい大人が平日の昼間に競輪場で車券を買う姿に顔をしかめる人が多い。「競輪での収益は青森市なら福祉施設に車イスを寄贈したり、道路に街灯を設置したりするのに提供している」(鳴海所長)。しかし、市民にそれは浸透しているとはいえない。青森市では競輪をしない人にも競輪場を利用してもらえるようにいろいろなイベントを実施している。例えば小学生等の遠足を誘致、バスも用意して往復の交通費も場内利用代も一切無料のため反響は大きい。競輪での収益をこういったことに利用することで「競輪のイメージアップになれば」と鳴海所長以下、青森競輪場スタッフは知恵を絞る。

 経費があまりかからず売り上げが好調なミッドナイト競輪を開催することで収益をきっちり上げ、競輪のイメージアップに貢献する。ミッドナイト競輪は競輪界になくてはならない存在になっている。