宇都宮競輪場でGⅡ「第6回ウィナーズカップ」が3月18~21日の日程で開催される。119期の先陣を切ってビッグレース初出場となるのが吉田有希(20=茨城)だ。恐るべき怪力を誇る新星は、一体どんな男なのか。

「〝茨城の豆タンク〟と呼んでください!」

 昨年9月に20歳になって半年、まだまだ紅顔の美少年がおもむろに腹をさする。

 先輩 お前、太ったんじゃないのか?
 有希 太りましたね。人生最高体重です。でも太っても自転車が進んだらいいんで!

 取手競輪場でかわされる会話はこんな感じだそうだ。うららかな日差しが差し込む日常。87キロの20歳が、時代を変えようとしている。

 119期として本格デビューしたのが昨年7月で、チャレンジ戦の取手、伊東、川崎を9連勝してA級1、2班へ特別昇班を決めた。特昇後も富山、伊東、宇都宮を9連勝でS級へ特別昇級。怒涛の18連勝は、119期一番乗りでのS級到達だった。

「いやいや、オレなんて、もう、カスですから」

 耳を疑うような謙遜のワードを発しつつ、当然これも119期一番乗りのS級初優勝(11月平塚)と驚かせる。そして豊橋、西武園と3場所連続V…。豆タンクが放つ砲撃はファンの胸を焦がし、選手、関係者のド頭をぶち抜いていく。

 しかし、腹は出ている。

〝輪界のドラえもん〟の異名を取る120キロS級レーサー・島田竜二(熊本)が憧れで、ポッチャリ体型は気に入っている。ある日、有希が1着を取ったレース後…。

 先輩 何や、この体で1着取れるんか?
 有希 競輪は腹圧です。今の主流はコレ、なんですよ。

 コレ、がスタイリッシュ。コレ、が競輪界の主流になるのかもしれない。ポッチャリ体型…。にわかには信じがたいが、その強さを目にすれば、容易に否定もできない。

 119期の先陣を切ってビッグレースの出場も決まった。宇都宮競輪場で開催されるGⅡ「第6回ウィナーズカップ」だ。「走りたくない!」がまさかの第一声。

「運良くS級に上がれたらいいな…くらいの選手だったんです。ボクなんかじゃ相手にならない。タクヤがいっぱいいるわけじゃないですか!」

 タクヤ、それは兄貴――。弾丸のような先行まくりが魅力だった吉田哲也さん(引退=51期)の次男がS級S班の吉田拓矢(26=茨城)で、三男がS級選手の吉田昌司(24=茨城)。有希は四男で長男は競輪選手にはなっていない。その、タクヤ。わかり切っているが、激しく強い。

「ザラにいる〝天才〟っていうやつですよ。努力もしているけど…。体重はオレより全然ないけど、うまく体を使っているんでしょうね」

 師匠でもあり、練習もともにする。強さは、わかる。そんな選手たちばかりが集まるビッグレース。「不安、アリ!」だが、出場するからには弾は込めていく。腹も出していく。

 時代を変える選手が出てきた時、競輪界は動く。高原永伍、中野浩一、滝沢正光、吉岡稔真、神山雄一郎、村上義弘、近年では深谷知広が大きく競輪選手の姿を変えた。直近ではナショナルチームの活躍があり、脇本雄太、新田祐大が風景を変えた。

「今の主流はコレ」――

〝茨城の豆タンク〟吉田有希の活躍が、競輪選手みんなを腹の出たポッチャリ体型に変えるかもしれない。

 ☆よしだ・ゆうき 2001年9月8日生まれ、茨城県出身。168・5センチ、87キロ。父は元選手の吉田哲也さん(引退=51期)、次男=拓矢(107期)、三男=昌司(111期)の四男。通称〝茨城の豆タンク〟。