「絶対はない」ギャンブル場で味わった人生訓

2012年06月12日 10時00分

【ギャンブル裏街道】学生時代にギャンブルを覚え始めたころ、その道の達人にキツく言われたことがある。ギャンブルに絶対はない――。勝負事に限らず、当たり前のことだが、財布が薄くなり思考回路がパンクするとそんなことも忘れてしまうこともある。

 最近で言えばオルフェーヴルが逸走し、本命党を困惑させたシーンを見て、改めて「絶対はない」を思い知らされた。また、レースを通してだけではなく、時として周囲の人間の行動を見て「過信するとロクなことはない」と痛感させられることもある。

 その昔、公営ギャンブル場には〝両替商〟がいた。お早いのとも呼ばれ、電卓を片手に黄色の帽子に紺の法被と腹巻き(だったような気がする)。そんな格好をしてレース場公認の仕事をしている人もいた。

 本場の客が激減したのとともにほとんどの方が廃業したと思われ、最近ではその姿を見かけなくなったが、確定が出る前にいち早く計算し、払い戻しにも応じてくれる人もいたし、当時は多くの客に重宝されていた。何よりレース場と客をつなぐ潤滑油として独特の存在感があった。

 長いこと現場を遊び歩いているが約20年前、たった一度だけ、痛恨のミスジャッジをしているのを見たことがある。

 平日の大宮競輪。ただのヒラ開催ではあったが、多くの客で場内はにぎわっていた。あるレースでゴール前、際どい攻防に。スローVTRを見てもわからず、当然のように写真判定となった。明らかにその時間は長く、どっちに転んでもおかしくなかったが、ある〝両替商〟が誰よりも早く営業を始めた。「こっちの方が勝ってる」と数人の客の払い戻しに応じ始めたのだ。

 プロの見立てだし、彼らなりに独自のルートがあって確定前に情報が入ってきたのだろうと、感心して遠巻きに眺めていた。するとその3分後に「同着」のアナウンスがあり、その両替商が慌てふためいていたのを覚えている。払い戻しに応じた券はハズレではないが〝半当たり〟で倍額払ってしまったことになる。プロの仕事ではない。

 あの人混みの中で一度払い戻した客を見つけ出すのは困難だし、まさか「返してくれ」とも言えないだろう。その道の達人でもこんな過ちを犯すこともあるのか、と知った。

「勝負事に絶対はない」。ギャンブル場で味わった人生訓が、後の仕事に生かされることもある。