新緑の季節の訪れとともに、ボートレース界には年に一度の「祭典」がやって来る。ファン投票で選ばれた一流レーサーが集結するSG「第44回オールスター」が23日、ボートレース福岡で開幕。それに先立ち、本紙は今年4月に愛知支部から長崎支部に電撃移籍したオールスターの常連・原田幸哉(41=長崎)と、長きにわたって日本サッカー界を支えた元日本代表FW・武田修宏氏(49)のスペシャル対談を実施。勝負の世界に身を投じた者だからこそ分かる「流儀」を語り尽くした。

 ――お2人はレース場でよくお話しされてますが、お互いの印象は

 武田:本当に気さくな方。それに結婚されてるので人生の先輩です(笑い)。レース場では冗談を言い合ってますね。自分も現役時代、試合前にサッカーの話はしたくなかったので。

 原田:武田さんは僕らの世代のスター。しゃべってもらえるだけでうれしいです。いまだに緑色のユニホーム(ヴェルディ)のイメージがあるし、有名人を見てハシャぐ少年の感覚ですよ。

 武田:いえいえ、引退したら過去の人ですから。僕はやっぱり現役選手が一番だと思うし、リスペクトしていますよ。

 ――常に明るくポジティブな性格も似ている

 武田:僕は静岡出身なので、愛知出身の原田選手とは同じ東海地区。あのへんって結構イケイケの人間が多いですよね。

 原田:あと、物事をあまり深く考えないところも似てるかも(笑い)。

 武田:そう! とにかく今日のことしか考えない。明日死んでもいいつもりで毎日生きている(笑い)。

 原田:ハハハハ。一緒です!

 武田:ところで、原田選手は今年GⅠを2つ勝って絶好調。何か要因はあるんですか?

 原田:2つありますね。一つは去年、同期の瓜生(正義)がグランプリを勝ったことで「俺もまだやれる」って思えました。もう一つは、そのグランプリに行けなかったこと。すごく悔しくて、このままじゃダメだと思って気を引き締めました。この2つがうまくかみ合ったと思いますね。

 武田:瓜生選手がグランプリを勝ったとき、どんな心境でした? 仲間だけどライバル。現役時代の僕なら、カズさんが点を取ったときの複雑な心境と似ていると思う。だから、とても興味ありますね。

 原田:瓜生に対して嫉妬は1%もないんです。訓練生のときから「瓜生ができるなら自分もできる」って本気で思っていた。だからアイツが活躍すると心からうれしいし、自分の分身が賞金王になったんだから自分もいつか絶対になれるって思える。今は賞金王になることしか考えていません。武田さんはどうですか?

 武田:引退してもカズさんはずっとライバルだし、一緒に時代を築いてきた友達。別の世界にいても刺激をもらってますよ。ただ、現役時代は生活のためにやっていたので、簡単に言うとカズさんが点を取ると僕はクビに一歩近づくわけですよ。そういう危機感は常にありましたね。

 ――勝負の世界は厳しいですね。そこで生き抜く流儀はありますか

 武田:とにかく「生きるために勝つ」って感覚を持つこと。僕は33歳で一度クビになったけど、サッカーがやりたいから一人で南米パラグアイに行った。試合に出られないと生活できない。でも勝てばおいしい肉が食べられる。単純にサッカーをやれる喜びや、食べ物のありがたさを知った。ハングリーになりましたね。

 原田:その言葉、若いボートレーサーに聞かせたいです。僕もその気持ちがなくなったら、たぶんレーサーを辞めると思う。なくならない自信もありますけどね。

 武田:サッカーもボートも一緒ですよね。もっと言えば、今いるテレビの世界もそう。チャンスが来てモノにしなかったら次はない。バラエティーに呼ばれても、そこで結果を出さないと終わり。どんな世界でもトップの人は常に危機感を持って戦っている。だから、中途半端なサッカー選手は思い切って1回クビになればいい(笑い)。

 ――それだけ過酷な世界に身を投じながら、2人は苦しい顔を一切、表に出しませんね

 原田:意図的に隠してますね。くだらない見えかもしれませんが…。でも、周りは「アイツは何も考えてないバカ」って思ってるでしょう。そのへんは僕より武田さんの方が(笑い)。

 武田:僕も見せないね。これは自信を持って言えますが、ヴェルディ時代に一番練習していたのは僕です。カズさんより! でも、そんなキャラじゃないから見せなかった。今もそうですけどね。

 ――オールスターはファン投票。2人とも努力は見せないけど、客を喜ばせる「魅せるプレー」は意識してますよね

 原田:僕はそれが100%ですね。結果より魅せることが大事。見てくれる人がいなかったら、賞金をもらってもやりがいがないですね。

 武田:僕も試合前にお客さんがどれくらい入っているかを確認するタイプ(笑い)。試合に全く出てないのにファン投票で選ばれてオールスターに出たときは、むしろうれしかったです。

 ――オールスターに向けて武田さんから激励を

 武田:原田選手はいろんな失敗を経験していますが、その挫折と苦労の分だけ成長しているし、勝ったときの喜びも大きいと思います。カズさんは魅せなきゃいけない試合では絶対に点を取る。そういう選手にファンは一番憧れるので原田選手にもそうやって感動を与えてほしいですね。

 原田:ありがとうございます。幸せです。でも今の武田さんの言葉の重みは、僕が20歳のころは理解できなかったと思う。でも今、こういう言葉を頂き、これから10年、15年先のボート人生に生かしたいですね。

☆たけだ・のぶひろ=1967年5月10日生まれ。静岡県浜松市出身。清水東高卒業後、読売クラブ(現・東京ヴェルディ1969)に入団。19歳で日本代表に選出される。新人王、MVP、4度のベストイレブンに輝くなどヴェルディの黄金時代を支えた。2001年の引退後は解説者となり、バラエティー番組にも多数出演。本紙のサッカー解説コラム「武田修宏の直言!」を執筆するほか、BSフジ「BOAT RACEライブ」にも出演。身長177センチ。血液型=O。

☆はらだ・ゆきや=1975年10月24日生まれ。長崎支部の76期生。95年6月の蒲郡でデビュー。プロ初出走で初1着を挙げ、96年10月の三国で初優勝。97年の最優秀新人選手に輝く。2000年のびわこ新鋭王座決定戦でGI初優勝。02年10月の平和島ダービーでSG初制覇した。通算75V(GI・13V、SG・3V)。身長173センチ。血液型=B。