【徳山ボートGⅠ・徳山クラウン争奪戦】レジェンド今村の「強さの秘訣」

2016年10月08日 11時59分

今村豊

【徳山ボートGⅠ・徳山クラウン争奪戦(9日開幕):注目レーサー】

「楽しかったー」

 9月に行われたGⅠ宮島周年の準優勝戦後の今村豊(55=山口・48期)の言葉だ。結果は3着。道中は井口佳典に競り負けて優出は果たせなかった。それでも負けた悔しさよりも、レースを楽しんだ気持ちのほうを素直に口にできる。これが今も第一線で活躍できる要因のひとつだろう。

 久々に記念戦線で上位に進出し「争うことができた」実感もあった。5月の尼崎のボートレースオールスターで負傷したケガの状態は今も決してよくはない。

 取材した日(※下関一般戦出走中)も試運転中に足を痛打。55歳の今村にとって、練習ひとつでも楽なものではない。満身創痍の身にムチ打って走り続けるのは常に「1着を取ってうれしい」の思いがあるからだ。その先にはいつも応援してくれるファンの声援もあれば、全盛期を過ぎた今でも昔と同じように買ってくれるファンの期待に応えようとする自分もいる。

「正直なところ走ることは好きではない」とも言う。いかにボート界のレジェンドといえど一人の人間。「お客さんは大事なお金を賭けてくれるわけだからね。負けて納得してくれるファンは少ない」。アマチュアスポーツとは違う公営ギャンブルの永遠のテーマだが、ボート界をけん引してきた第一人者が口にすれば重みが違う。

「試運転なんかでボートに乗ることは好き。でもレースになると話は別。レースの恐怖心だとかS事故しちゃいけないとか、様々なプレッシャーがかかるし舟とボートレースでは全く違う」

 ピット内はいつも明るく振る舞っている今村だが、自分で自分にプレッシャーをかけてしまう。レジェンドだから勝てるとか、レジェンドだからここまでできるとか、レジェンドというひと言で片づけてはならない。

「自分が衰えてきているのは分かっている。それでも買ってくれるファンがいる。地元を走るときなんかは特にね。どうにもならない時があるけど、それでも今村ならどうにかするだろうとファンは思ってくれている。だから期待に応えていけるようにしなくてはいけない」

 そんな中、新居に引っ越したのを機に、それまで積み上げた数々の優勝トロフィーをファンサービスの一環としてボートレース徳山へと寄付した。「それを勝とうと思って目標にして、そして勝った、やったっていう感じじゃない」。ここ徳山ではGⅠだけでも4Vを数えるが、思い出のレースだとか、印象のレースは「覚えていない」と言う。レースの格だとかにこだわりは全くないのだ。冒頭の「楽しかったー」という言葉は、さまざまな葛藤を乗り越えたところにこそある。

 過去の数々の栄光に興味はなく、これからも記録にこだわることもない。“断捨離”を経てさらに前へ。今日も“信念”を胸にレジェンドは走り続ける。