ボート界のレジェンド 語り継ぎたい思い出の名勝負

【平石和男(48=埼玉・58期)】(2003年平和島、笹川賞)

 ベテラン強豪選手が心に残る思い出のあのレースを振り返る「ボート界のレジェンド 語り継ぎたい思い出の名勝負」。今回は埼玉支部が誇る名レーサー平石和男(48=埼玉・58期)が登場だ。

 後ろ姿はまるで女性?かロックミュージシャンのような風貌。茶髪のロン毛をなびかせ、カッパも当時ではまだまだ珍しい迷彩柄。ピット内でもひと際、異彩を放っていた“平ちゃん”こと平石和男ももう48歳。プレミアムGI「マスターズチャンピオン」に出場可能な年齢になった。
 そんな平石の心に残る思い出の一戦とは?

「初めてのGI制覇だった桐生(39周年記念=1995年)や戸田周年の初V(53周年=2010年3月)ももちろんだけど、やっぱり平和島(第30回笹川賞=03年5月、現SG・オールスター)かな…」

 物思いにふけるかのようにとつとつと語ってくれた。「あのレースは加藤(峻二)さんと2人で優出でね。加藤さんがSG史上最高齢優出記録を作った一戦。そんな人と一緒に走れたのもあるけど…」。この大会を迎える直前、平石にとって大きな出来事があった。

「大会直前に木村厚子さん(故人=5月24日、津7R=レース中の事故で殉職)の事故があって…。前検前に霊前で手を合わせて出かけたんだ…。その時にいろいろ考えさせられた。木村さんの無念さとか、いつ自分の身にも起きるかもしれないとか、家族はどうなっちゃうとか…。そんな中で走れることのありがたみとか喜びとか…。つくづく考えさせられた。それもあってあの節はすごく集中していて、自分だけでなく埼玉4人(ほかに加藤、池上裕次、滝沢芳行)みんながそうだった。弔い合戦ってわけではないけどとにかく必死になんとか勝ちたいと思っていた」

 鬼気迫る集中力で走り切ったシリーズはまさに“神がかり”的な後押しがあった、といいたくなるくらいに劇的なVだった。それだけにこの一戦の重み、思い出は今も平石の心にしっかりと焼き付いているのだろう。

 さらに「祝勝会の2次会もいい思い出。俺、結婚式を挙げてなかったので仲間がサプライズで嫁との“式”をしてくれてさ。ドレスとかも用意されて…」という後日談もあったならなおさらだ。

 さて、そんな平石は現状をどう捉えているのか。「まだまだ頑張らなきゃだし、やれると思っている。少なくとも東京五輪まではトップ戦線にいて毎年GIを1つは勝ちたいと思っている。それには“気持ち”だよね。丸くなったつもりはないけどもっと前面に出さないとね。もちろん技術面だってまだまだ若い子たちのターン力に負けないように研究心や探究心を持ってやっている」

 あくなき闘争心はまだまだ健在だ。

「今年からマスターズチャンピオン(名人戦)だけどあれは勝ちに行く、優勝するつもりです」と気合満々。その前にまずは地元戸田の関東地区選(2月6日~)に照準を合わせている。「そう、勝てば3月のSGクラシックに行けるから。なんとかしたいね」と目を光らせた。 

☆ひらいし・かずお=1966年7月14日生まれ。東京生まれの埼玉支部。86年5月、戸田デビューの58期生。同期には池上裕次、三角哲男、田頭実、柳沢千春ら。93年7月、多摩川で初優勝。GIは95年9月桐生「開設39周年記念」が初V。SGは2003年5月、平和島の「第30回笹川賞」で初優勝を飾った。通算優勝は48回。うちGI10回、SG1回の優勝がある。