【からつGIマスターズチャンピオン:カウントダウンコラム(2)】毎年、大物新人が続々デビューし、新規参戦から即大暴れ。回数を積み重ねるごとに、年々進化し続けているのが「第15回マスターズチャンピオン(名人戦)」。本紙恒例の連載コラム第2弾は、第8代名人の大嶋一也(56=愛知)だ。生粋のイン屋の「複雑な思い」を読み取らないことには匠の競演を語ることはできない。

「出るからには常に優勝を狙う気持ちは一般戦でもGⅠでも変わらないよ。ただ、どうしても欲しい(2回目の)タイトルかと言われると正直、そこまではね…」

 今村豊らV候補の多くは同じ言葉を口にする。今でもSG常連の自負があるからこそ、桜の時期に抱負を聞かれても、苦笑いするしかないのだ。

「それにね…」。今年に入ってからの戦績を改めて見つめ直し、自虐的な言葉を吐く。

「今の俺は坂道を転げ落ちているようなもんだからさ。とても強気なことは言えないよ」

 トップクラスの選手の中でも、もともと波の激しいタイプではあるが、近況はそれが顕著に出ていた。昨秋、4連続Vを飾ったかと思えば、新年に入ってからは大敗や事故も目立ち、勝率は急降下。弱気な姿勢も見せていた。

 それでも、強調材料は余りある。不振続きの近況に別れを告げるかのごとく前節の住之江でV。そして九州地区では2回目の開催となる、からつでの戦績はずば抜けている。過去5年間、5節走っての勝率は8・54。3連対率、1着回数、優勝回数、どれを取ってもメンバー中トップ。今から15年前、SGウイナーの仲間入りを果たしたのもこの地だった(第9回グランドチャンピオン決定戦)。

「何だか知らないけど、結果がいいよね。ホント自分でもよく分かってないんだから、あんまり深く聞かれても困るんだよ(笑い)。ひとつ言えるのは今の自分があるのは、からつさまさまです、ってことかな」

 こだわりの多いイン屋が集うからこそ今大会の意義は深まる。普段はまずやらない“奇策”の応酬も楽しみのひとつであり、イン屋にとっては意表を突くカド戦がその切り札となることもある。

「こればっかりは相手があることだからね。(ダッシュに)出ることも当然あるだろうけど、とにかく大事なのは集中力」

 ここ一番で果たしてどんな奇策を放つのか。口ぶりからすると、ダッシュ戦はない、とみた。イン屋が集結した中でも、あえて深イン覚悟で強気な勝負ができるのが第8代名人位に就いたこの男のすごみでもある。

☆おおしま・かずや=1958年1月28日生まれの56歳。81年とこなめでデビュー。2年目の若松で初優勝を飾る。GⅠは大村名人戦を含め通算13V。SGでは99年のからつ「グランドチャンピオン決定戦」、当大会は第8回大村で優勝歴がある。趣味は古道巡礼。身長164センチ。血液型=AB。