39年の選手生活終えた鵜飼菜穂子 史上初の女子SGウイナー誕生は「命懸けで働く選手が出てくればおもしろい」

2020年10月30日 06時00分

花束を手に笑顔を見せる鵜飼菜穂子

 女子レーサー界の第一人者・鵜飼菜穂子(愛知・61)が29日、ボートレースとこなめヴィーナスシリーズ第15戦・最終日第8Rを最後に引退した。

 39年の選手生活を終えた鵜飼は現在の女子ボートレース界発展の先駆者として活躍、1990年代に全盛期を迎える。女子王座3連覇を果たし、89年~92年にかけて4年連続で女子賞金王のタイトルを獲得した。女子リーグ通算優勝回数42回は誰にも破られていない。

「若い頃は勝つのが当たり前だと思っていたし、2等を取る気がしなかった。自信過剰なのかなあ。でも、選手として自分のことを上手だと思ったことは1回もない。とにかく気力1本! みんなが敵だと思って走っていたからね。だから、かわいくないのよね」

 怖いもの知らずの絶頂期を自嘲気味にこう振り返る姿はどこか誇らしげだ。知り合いの女性記者から「アンタの一番いいところは友達が1人もいないところよね、って言われたことがあるの。でもそれが正解だから」と豪快に笑い飛ばす。

 他人を押しのけてコースを取りに行くそのレーススタイルから〝性悪〟と思われがちだが、鵜飼のことを悪くいう選手はほとんどいない。同県の後輩である細川裕子(愛知=38)は「鵜飼さんに教わったこと、助けてもらったことは数えきれないし、感謝してもしきれない」と神妙な面持ちで別れを惜しんだ。

 先輩でもある古川美千代さん(故人)から若手の頃に教わった言葉を今でもその胸にずっと刻みながら生きてきた。

「実るほど頭を垂れる稲穂かな」

 陸の上では常に謙虚たれ。この姿勢を貫いた。「強かった頃は必死過ぎて頭を垂れてる暇はなかったけど、月日が経てばわかることもいっぱいあるのよね。今は実ってなくてもタレちゃっているけど、勝っても負けても、ありがとう、すみませんって素直に言えることが大事なのよね」

 最後に今後の女子ボート界の展望を聞いた。果たして史上初の女子SGウイナー誕生の可能性はあるのか。

「大山チーちゃん(千広=福岡、24)がエースエンジンを引けばいけるかもしれないよね。でも、どうかなあ。やっぱり1人だとどうしても他の選手から標的にされちゃうからね。チーちゃんだけでなく、同時に5、6人そういう選手が出てきたらチャンスはあるかもね。私の頃なんか、鵜飼をこかせたいと思ってた選手がいっぱいいたんだから(笑い)」

 女子は産休などもあり、レースに専念できる環境が男子選手とは異なる。「日高(逸子=福岡、59)みたいに家事はダンナさんに全部任せて、若いうちから自分は命懸けで働く女子選手が出てくればおもしろいんじゃないの。ただ、一瞬の判断力や腕力。それに持って生まれた本能はどうやったって男の人にはかなわない」。全盛時「気力一本」で戦い続けた時には気付かなかったことが晩年になってようやく理解できたという。

「誰だって弱らなきゃ人間じゃないのよ」。紆余曲折あった39年間のレーサー人生に悔いはない。