女子大生オートレーサー・桝崎星名「車名は迷わずA・セナ」

2020年01月03日 11時00分

キャンパスにすっかりとけこむ桝崎だがマシンにまたがれば勝負師に

 伝説のF1ドライバーのように速く、強く。オート界のセナが女子最速レーサーへ――。2019年夏、34期生がデビューし、新たにプロレーサーの仲間入りを果たした。同期女子5人の中でも異彩を放ち、大学生オートレーサーとして奮闘しているのが桝崎星名(21)だ。その名の由来になっているのはF1レーサーのアイルトン・セナ。数年後のスーパースターガールズ王座決定戦制覇を目指すセナの胸の内を探った。

 21年前に授かった名はセナ。物心ついたときから小気味良い響きに愛着はある。誰でもすぐに覚えてくれるこの2文字は大のお気に入りだ。デビュー戦に向け、車名を「A・セナ」と命名することに迷いはなかった。

「レーサーとしての実績や人気もすごい方で尊敬しています。名前が名前なんで最初はプレッシャーもあったけどこの名に恥じないようみんなに愛される選手になりたい」。周囲からはもちろん「セナ」と呼ばれていたが、オートレーサーの同期には「アイルトン」と呼ばれることもあるという。

 名前だけでなく、名字の「桝崎」もオート界では偉大な看板だ。スーパースター王座決定戦の初代覇者・桝崎正さんは祖父の兄にあたり、浦田信輔(46)、田中茂(43)らをスパルタで鍛え上げた名伯楽でもある。

 デビュー前、桝崎姓とあって特別視されることに葛藤もあった中、遠縁の桝崎陽介(39)にかけられた言葉が心に響き、プロとしての心構えを学ぶ後押しにもなった。「自分も桝崎の息子として入ってきていろいろあったけど結局のところ自分は自分だからね。セナも名前にとらわれず、自分なりに努力して頑張っていくしかない」

 養成所では「ドンジリの成績だった」という桝崎だが、遅い選手が実戦を積み重ねるうちに巻き返してS級に上り詰め、大舞台で輝く例も数多くある。

 19年6月、浜松所属となり、野田光宏(48)に師事することになった。同門には鈴木圭一郎もおり、環境は抜群だ。初出走してから29走目、11月の伊勢崎で初白星をマーク。一番の武器であるスタートセンスは意外なところで培ったものが、生きてきている。

 中学生でダンスを始め、Y!mobileのCM出演歴もあるほどステップは軽妙だ。発走地点に着いた時、自然と音楽が頭の中を流れ、それが右手のアクセルワークに伝わり、ドンピシャで決まることもある。

「スタートはリズムを取ってタイミングを合わせてます。ダンスで学んだことが生かせてますね(笑い)。それに常にストレッチをする習慣ができているので落車してもケガをしづらい体になってます」

 憧れの選手は桝崎グループの大将格でもある浦田だ。「攻めたい! 勝つにはスタートを行っちゃうのが一番いいけど、最終的にはさばいて攻めて勝てる選手になりたい」と目を輝かせている。それを受けてSG8冠の浦田は「自分が口出しするとパニックになってしまうと思うので言いませんけど、環境は恵まれていると思う。圭一郎(鈴木)もいるし、ナベさん(渡辺篤)や頼さん(西川頼臣)もいるしね。いいところに付いたので業界を背負って立つぐらいになってほしい」と柔和な笑みを見せながら気遣いしている。

 数々の伝説を作り上げたアイルトン・セナは感情の表現方法も豊かだった。地元で初優勝を成し遂げた1991年のブラジルGPではウイニングランの周回中、感情を抑えきれずヘルメットの中で号泣して喜びを爆発させたのは今でも語り草となっている。

「私もヘルメットの中で泣いたことがあるんです。うれし泣きではなく、悔し涙ですけどね(笑い)。いつかヘルメットの中でうれし泣きできる日が来たら最高ですね」

 女子オート界の歴史にセナの名を刻むべく、ずっしり重い様々な期待を背負って爆音を響かせる。

【単位はギリギリ】取材場所は桝崎が在学している桜美林大学の町田キャンパス。リベラルアーツ学群日本語日本文学を専攻、現在は3年生だ。養成所に入所中の昨秋から今夏まで休学していたが再び戻り、レーサーと両立しながら2年後の卒業を目指している。「今、できることを精一杯やって後で後悔はしたくないし、途中で投げ出すことは好きではない。あと4回休んだら(単位取得が)アウトのものもあり結構、ギリギリなんです」とのこと。それでも、3年生の段階で“就活”はすでに終わっている。

【学生レーサーの先駆者・永井がエール】オート界第一人者の永井大介もデビュー当初は青山学院大学に通いながら学生レーサーとして活躍した。「先生に自分の場合はこういう仕事をしているので全部の授業には出席できないと相談しました。理解してくれた先生もいたけど、多くは他にも働きながら通う学生はいるので特別扱いはできないと言われた。試験のときは仕事を休んでオートを最優先にして5年通ったけど、単位が取れなかった」と当時の状況を振り返った。卒業を目指す桝崎には「3年生ならうまくできるかな。今は仕事を覚えるのに大事な時期なのは確かだけど頑張ってほしいですね」とエールを送っている。

【趣味は高校野球観戦】多趣味な21歳の一番の楽しみは高校野球観戦だ。「9回裏ツーアウトでも最後まで何が起こるかわからない」不思議な魔力にハマった。小学生のころから甲子園に足を運び「徹夜して新聞を敷いて、その上に寝て開門を待ったこともあります」と喜々として語る。ひいきにしているのは智弁和歌山で伝統ある朱色のユニホームを見ると心が躍る。「選手というよりいつも仁王立ちで見てる高嶋(仁)前監督の姿が好きなんです。若手よりおじいちゃんの方が好き」とはにかむ一面ものぞかせている。

☆ますざき・せな=1998年4月1日生まれ。神奈川県秦野市出身。浜松所属の34期生。今年6月の浜松でデビュー。11月30日の伊勢崎1Rで初勝利を飾る。師匠は野田光宏。同じグループには西川頼臣、鈴木圭一郎らがいる。オートレーサーであると同時に桜美林大学に通い、リベラルアーツ学群日本語日本文学を専攻。趣味はヒップホップダンス、高校野球観戦、カラオケなど。好きな男性のタイプは「包容力のある人」。身長154センチ、体重46キロ。血液型=O。