【ワシントン州タコマ23日(日本時間24日)発】WWEのPPV大会「ストンピング・グラウンズ」が当地のタコマ・ドームで開催され、WWEユニバーサル王座戦は前代未聞の展開の末、王者セス・ロリンズ(33)が、悪の保安官バロン・コービン(34)を撃破して王座防衛に成功した。

 戦前から自分に有利なレフェリー擁立を画策していたコービンが最終的に選んだのは、何とロウ女子王者の“ザ・マン”ことベッキー・リンチ(32)に敗れたばかりの貴婦人レイシー・エバンス(29)だった。

 イスを手にしてリングインした王者は「俺からベルトを引き剥がすつもりだろうが、そうはさせない。どんなレフェリーでも連れて来い!」と男らしく挑戦者に言い放った。しかしコービンが紹介したのは、まさかの貴婦人レイシー。さすがのロリンズも絶句するのみだった。

 ロリンズは5月にベッキーとの交際を公表したばかり。レイシーにとっては憎きベッキーの恋人は、敵も同然となる。しかしそこまでして勝ちを狙ってくるコービンもコービンだ…。

 コスチューム姿で試合を裁いたレイシーは、極悪同盟の阿部四郎レフェリーも真っ青の理不尽さを発揮する。ぼうぜんと立ち尽くす王者の背後から、コービンがイスで攻撃。しかし王者がイスを奪うと「反則行為よ」ととがめる。ロリンズがスーパーキックを決めても、超スローカウントで挑戦者を擁護する。しかし正義の人・ロリンズは、女性に手は出せないとひたすら耐え続けた。この時点から場内には「ベッキーコール」が渦巻いた。

 10分過ぎ、ロリンズが勝負に出た。リングアウト勝ちを狙ってエプロンから本部席へのパワーボムを決める。コービンは半失神だ、ロリンズは場外カウントを促すが、貴婦人はまたしても超スローカウント。コービンが立てないと見るや、何とリングアナウンサーを呼びつけ「この試合は場外カウントなし」とコールさせてしまった。

 露骨なレフェリングは続く。フロッグスプラッシュを決めても、マットをゆっくり2回叩くと肩を痛めたふりをして、カウントを中断。さらにはガーターの位置まで直してカウントを中断する始末…。もはやロリンズの表情には絶望の色しかない。さらにコービンがイスを手にすると「この試合はノーDQマッチに変更します」とアナウンス。ロリンズがイス上へファルコンアローを決めても8秒もかけてカウント2しか数えない。もはやこれは試合ではない。

 全身を怒りでたぎらせたロリンズが正面からにらみつけるや、レイシーは貴婦人の仮面を捨てて鬼の形相で張り手を2連打。さらにはキックからローブローまで見舞う暴挙に出る。直後にコービンがエンド・オブ・デイズ(スイング式顔面砕き)を決めると、これまでとは見違えるような高速カウント。ロリンズは何とか2・9で返すも、もはや勝利への道は全て閉ざされたかのようにも思えた。

 ここで黒い影がステージからトップスピードでリングへ飛び込んできた。ベッキーだ。愛する恋人を冒とくされたカリスマはタックルでマウントを奪うや、レイシーの顔面に十数発のパンチを見舞う。さらには場外でエクスプロイダーを見舞うと、再び馬乗りになってパンチを連打。半失神になった時点でレフェリー陣がベッキーを制止。ここでようやくWWE公認レフェリーがリングに上がった。

 もう決めるしかない。ロリンズはスーパーキックから必殺のストンプ(後頭部への踏みつけ)一撃。何度も勝負を決めていたにもかかわらず18分23秒、ようやく3カウントを奪った。直後にベッキーの姿を確認すると、ロリンズの表情にやっと笑顔が戻った。

 ロリンズは頼もしい恋人の肩を抱き寄せると、2人で両手を掲げて勝利をアピールした。交際発表以来、同時にリング上に立つのは今回が初となる。あらゆる手を尽くして敗れたコービン一派が黙っているはずもなく、王座戦で引導を渡したはずのレイシーとベッキーの遺恨も再燃した。

 またWWE日本公演(28日、29日=両国国技館)の初日でロリンズは中邑真輔(39)の挑戦を受ける。ベッキーは2日目にアスカ(37=華名)、アレクサ・ブリス(27)とトリプルスレッド王座戦を行う。近来まれに見るハッピーエンドとなったPPV大会は、同時に新たな戦いを生み出すことになりそうだ。