悲願成就だ。新日本プロレス真夏の祭典「G1クライマックス」は12日、東京・日本武道館で優勝決定戦が行われ、Aブロック1位の飯伏幸太(37)がBブロック1位で前IWGPヘビー級王者のジェイ・ホワイト(26)を撃破し、初優勝を飾った。若手時代から「プロレス界の未来」と嘱望されたゴールデンスターが、5度目の出場で待望のビッグタイトルを獲得。4月の新日プロに再所属後、劇的な“進化”を遂げてついに業界の主役に躍り出た。

 令和初のG1覇者を決める戦いは、文字通りの死闘となった。負傷している左足首を攻められた飯伏はカミゴェをかわされ、ジェイのスリーパースープレックス、クロスアーム式ブラディサンデーの猛攻にさらされる。それでもブレイドランナー(シスターアビゲイル)にカウンターのニーアタックを決めるや、必殺のカミゴェが炸裂。さらに追撃の一発を叩き込み、ジェイを振り切った。

 10日のAブロック最終公式戦ではIWGPヘビー級王者オカダ・カズチカ(31)を激闘の末に初めて破り、逆転で優勝決定戦に進出。昨年大会で敗れた大舞台で、ついに栄光をつかみ取った飯伏は「どんどん新日本を、みんなで大きくしていきたいです。僕に言う権利が回ってきたので言わせてもらいます。みんなで新日本プロレスを、プロレス界を盛り上げていきます!」と高らかに宣言した。

 DDT時代の2013年10月、史上初の試みとして新日プロとのダブル所属になった。だが、当時は肉体的にも精神的にも負担が大きく、16年2月に両団体を同時退団。フリーを経て新日プロに再所属したのは今年4月のことで、入団会見では何度も「覚悟」という単語を口にした。

「これを機に飯伏に大きな変化が起きた」と語るのは、新日プロのハロルド・ジョージ・メイ社長(55)だ。実は飯伏の再入団に際し、盟友の中澤マイケル(43)に専属トレーナーとしての契約交渉も進めていたという。フリー時代は知らないケータイ番号の電話を取らずに試合オファーが激減するなど、決して社交的な部類ではない飯伏には、気心の知れた友人による精神面サポートが必要という配慮だった。

 すでにマイケルは米AEWと契約済みだったためこのプランは実現しなかったが、その後の飯伏を見ればそれは杞憂に終わった。「控室でも積極的に、若手も含めてみんなとコミュニケーションを取っている。今までは他に何を言われても関係ない、自分だけの世界をつくっていた。肉体もですが、人間として精神面の進化が見られるんですよね」(同社長)

 所属する芸能事務所のマネジャーも「以前は仕事の連絡を2週間既読スルーとか、あり得ないようなことが平気であったんですが…。最近は衝撃的なまでにまともなんです」と明かす。いわゆる“危うさ”も魅力の一つだったことは確かだが、ずばぬけた「技・体」に追いつく「心」が備わった。プロレス界の異端児に、業界を背負う覚悟が生まれた証しだろう。

 メンタルの強さは過酷なリーグ戦でも存分に発揮された。初戦で左足首の三角靱帯を損傷。人前では決して弱音を吐かなかったが、終盤は痛み止めの注射を2本も打ち、執念でリングに立ち続けた。昨年までとの違いについては飯伏も「全てが違いますよね。特に精神的なものが」と語る。

 優勝トロフィーを手にした瞬間はプロレス少年のような笑顔を浮かべたが、その内面は計り知れない進化を遂げた。ファン、関係者が待ち望んだゴールデンスターの時代が満を持して到来だ。

【飯伏と一問一答】

 ――初制覇だ

 飯伏:去年からこの日を待っていました。G1はこれほどまでに過酷ですか。これだけ頑張らないとつかみ取ることができないのかよく分かりました。今までも分かっていたつもりでしたけど、分かってたようなふりをしてたのかもしれない。今は最高にうれしいです。これまでつかむことができなかった、それを積み重ねて取ることができて。

 ――次の目標は

 飯伏:G1を取ったら次は何ですか。IWGPヘビー級のベルト。僕はそれを取りたいと、本当に思ってます。そしてこれから実現させます。

 ――セコンドもつけずに一人で戦った

 飯伏:僕はずっと一人で生きてきたので…というのはやめましょう。いや、寂しすぎましたね。

 ――毎日のように「諦めない」と声に出した

 飯伏:僕のなかで覚悟はあったつもりだったんですよ。今は、それが確信に変わりました。

 ――新日本を大きくすると言った。具体的には

 飯伏:もっともっとプロレスというものに可能性があると思っているので。もっとたくさんの人に見てもらいたい。僕だけじゃなくて、他の人と関わり合って盛り上げていきたい。そこは今までと変わらないです。