全日本プロレス15日の博多スターレーン大会で行われた3冠ヘビー級選手権は、王者の宮原健斗(27)が挑戦者・大森隆男(47)を撃破し、7度目の防衛に成功した。地元の母校・福岡市立福翔高校時代の柔道部顧問で、今でも心の支えとなっている恩師の目前で王座を死守し、2017年も最高の滑り出しを見せた宮原。いよいよ最大目標に掲げる同王座の最多防衛記録(V10)更新に大きく前進した。

 激闘の終了を告げるゴングが打ち鳴らされた後も、しばらく王者は立ち上がれなかった。ようやくコーナーにもたれかかりながらベルトを受け取ると、大の字の挑戦者に手を差し伸べて握手をかわす。そして「決意は揺るがねえ。プロレス界のナンバーワンを目指して、この3冠ベルトを巻いてるんだ。今年、最多(防衛)記録を作って歴史に名を残す!」と改めて決意を表明した。

 昨年の大躍進が認められて、東京スポーツ新聞社制定「2016年度プロレス大賞」殊勲賞を獲得。受賞後初の防衛戦だっただけに、ここで王座を手放すわけにはいかなかった。序盤から徹底的な右腕攻撃を敢行。鉄柱に腕を巻きつけて蹴りを入れる非情さも見せた。大森のパイルドライバーでピンチを迎える場面もあったが“斧爆弾封じ”が奏功。最後はシャットダウンスープレックスホールドで勝利した。

 満員に埋まった“西の聖地”には恩師の姿があった。高校時代に柔道部の顧問だった八田智弘先生(45=現同市立博多工業高勤務)だ。高2の時に同校に赴任してきた八田氏に、宮原はたちまち心酔したという。「すごい熱い方で兄貴分のような存在だった。先生も昔はプロレス小僧で、プロボクサーとしてデビューしたことがある異色の方だった」と振り返る。

 卒業式直前の出来事は今でも深く心に残る。卒業後に健介オフィス入門が決まっていた宮原は、八田氏からなぜか校内放送で呼び出され、熱い言葉をかけられた。「プロレスラーになるって聞いて感動した。今の時代、夢をかなえようとするお前みたいなヤツはすごい」と語った同氏は、こう続けた。「山登りはキツイけど、頂上に行った人にしか見えない景色がある」

 その後、高校最後の乱取りの相手を務めてくれると、涙を流しながら抱擁を交わした。昭和の青春ドラマのような感動的な光景は、若き王者の原点となっている。「あの言葉が練習生時代の俺の糧になっていました。今でも山登りの最中ですから、俺は頂点を目指しているんだって気づかせてくれる」。八田氏の言うまだ見ることのない景色を求め、王者は日々精進を続けているという。

 試合後には世界タッグ王座を保持するボディガー(48)が次期挑戦を表明。同時に世界タッグへの挑戦も促された。「タッグを取れば5冠。最多防衛記録で5冠なら俺、目立てるよね。夢がまた増えました」と宮原。頂(いただき)を目指す王者の戦いは、これからも続く。