凄惨マッチから1年…世志琥 号泣復帰の裏

2016年03月08日 16時00分

復帰を果たした世志琥は試合後、涙を流した

 7日の女子プロレス「シードリング」東京・後楽園ホール大会で、世Ⅳ虎改め世志琥(よしこ=22)が約1年ぶりの復帰戦に出場した。高橋奈七永(37)との一騎打ちを制して完全復活をアピールすると、選手、ファンから温かい声援で迎えられた。だが、世間的にも注目を集めた“乙女”復帰の道のりは、周囲で訴訟騒動が起きるなど決して平坦ではなかった。すべての発端となった“凄惨マッチ”から1年、涙の復帰戦の舞台裏に迫った。

 

 黒とシルバーを基調とした新コスチュームに身を包んだ世志琥が登場すると、会場からはあふれんばかりの大「世志琥コール」が起こった。試合をするのは昨年2月22日のスターダム後楽園大会以来。安川惡斗(あくと=29)との試合が“凄惨マッチ”になり、その後の引退につながったあの一戦だ。

 

 だが、ブランクを感じさせない動きで高橋の厳しい洗礼を耐え抜いた。最後は20分46秒、ダイビング攻撃を狙う高橋にカウンターのラリアートを見舞い、3カウントを奪った。試合後はリング上で号泣しながら土下座し「プロレス最高です! 心の底からプロレスが大好きです!」と叫んだ。この日、最大のハイライトだった。

 

 感動のシーンとは裏腹に、スタッフたちは会場にくまなく目を光らせていた。団体関係者によると、予期せぬ乱入もあり得ることを想定し厳戒態勢が敷かれていたのだ。実際に2月11日にミャンマーで現役復帰を表明してからというもの、賛否両論の声が飛び交った。

 

 団体サイドも想定内のものとして受け止めていたが、SNS上ではプロレス界に関わりがあると思われる人物から世志琥とシードリング代表の高橋、南月たいよう専務(31)が名指しで誹謗中傷され、ファンを扇動しているともみられる書き込みが続いたという。そこで団体側では所轄の警察署に相談。弁護士とも「威力業務妨害罪」での法的対応も視野に入れて協議していた。

 

 22歳の世志琥が抱えたストレスも尋常ではなかった。昨年の騒動後は外部をシャットアウトするように、部屋にこもる日々が続いた。現実逃避もあってか本をむさぼり読んだ。その中の1冊が「エースと呼ばれる人は何をしているのか」。

 

 アイドルグループ「AKB48」や「モーニング娘。」の演出、振り付けを手がけた夏まゆみ氏が書いたもので「あっちゃん(元AKBの前田敦子)が一人でいる子で、それが大切と書いてあったのが印象に残った」。かつて女子プロレス界のエースと期待された自分と重ね合わせ、奮い立たせた。

 

 2月にはミャンマー初のプロレスイベントにスタッフとして同行。男子選手と接触するのは久々で「緊張していた。みんなどういうふうに思っているのか分からなかったので」という。ところが蝶野正洋(52)をはじめとした遠征メンバーからは温かく迎えられ、KENSO(41)からは「世志琥ちゃんらしくいけばいいんだよ」と声をかけてもらった。また鈴木秀樹(36)は「復帰おめでとう。あの試合で勝ったのは世志琥ちゃんなんだから。ただ、サブミッションをもっと覚えたほうがいい。めった打ちにしないでも、相手を参ったさせることができる」と親身に助言をくれた。

 

「ありがたかった。鈴木さんは、あの試合を見た上で言ってくれたので」(世志琥)

 

 迷いも吹っ切れ、この日のリングに立つことができた。試合前にエールをくれた長与千種(51)と鈴木が会場の片隅で見守るなか、世志琥の第2のプロレスラー人生がスタートした。