方舟が沈む――プロレスリング・ノアに激震が走った。15日の東京・有明コロシアム大会で行われたGHCヘビー級選手権は、挑戦者の鈴木みのる(46)が王者の丸藤正道(35)を破り、第23代王者に輝いた。これでヘビー、タッグ、ジュニアヘビー、ジュニアタッグの4大GHC王座がすべて「鈴木軍」に流出する結果になった。団体旗揚げから15年目で迎えた緊急事態に「特別立会人」として試合を見守った元ノアの鉄人・小橋建太(47)が大激怒。鈴木軍の蛮行とだらしないノア勢の現状を厳しく糾弾した。

 エメラルドグリーンのマットが、8人の賊軍に占拠された。特別立会人の小橋からベルトをぶん捕ったみのるは、ふてぶてしい表情だ。ノアマット上陸からわずか2か月で、団体のベルトがすべて鈴木軍の手に渡った屈辱の瞬間だった。

 メーンが始まる時点ですでに3王座が鈴木軍に流出。王者の丸藤は、最後のトリデとしてリングに上がった。序盤は互角の勝負だったが、20分過ぎから試合は大きく動いた。3度目でようやく不知火を成功させた丸藤は、一気に畳み掛けようとするが、飯塚高史ら3人がリングサイドに流れ込み、鈴木軍のセコンドは総勢7人に膨れ上がってしまう。

 すかさずレフェリーの隙をつき、飯塚がアイアンフィンガーフロムヘルで丸藤のノド元を突いた。これで虫の息となった丸藤に、みのるが滞空時間の長いゴッチ式パイルドライバーを決め、トドメを刺した。「プロレス界の歴史が変わった日だ。かつて方舟と呼ばれたオンボロ船は、ただのゴミになった。プロレス界に鈴木みのるの時代が来たんだよ!」とみのるは吐き捨てた。

 ノアも全選手が飛び出してリングに入ったが、時すでに遅し。「あんなきたねえ勝ち方でうれしいのか? もう一回、俺に行かせてくれ!」という丸藤の再戦要求も、むなしく響くだけだった。メジャー団体で全王座が流出したのは、2011年10月の全日本プロレス以来のこと。負の歴史がノアマットに刻み込まれたことになる。

 ここで怒ったのがかつて絶対王者と呼ばれた鉄人・小橋だ。小橋は本紙に対し「言葉がない。むなしさと怒りだよ」と険しい表情を見せた。小橋が問題視したのは結果ではなく、4つのタイトル戦で、2試合がセコンドの加勢による決着になったこと。実はメーン終了直後、小橋は試合を裁いた西永秀一レフェリーに「これはダメだ!」と抗議していた。だが、試合の絶対権限はレフェリーが持つため、結果が覆ることはなかった。

「俺が馬場さんから教わってきたのは、チャンピオンは品を持つということ。あのやり方はタイトルマッチとは呼べないものだよ。鈴木軍の必死さは認めるけど、セコンドを介入させるタイトルマッチのやり方は、俺の中では認められない!」

 同王座は小橋が現役時代、史上2位となる13度の防衛記録を作った愛着のあるベルト。激戦を通じてGHC戦の価値、ベルトの権威を高めてきた自負があるだけに、なおさら許せない。鈴木軍がベルトを粗末に扱うことに対しても「バカにしてる。俺の中では絶対にあり得ない行為」と断罪した。

 怒りの舌鋒はノア勢にも向けられた。「ノアのセコンドも止めることができなかったのか? 周りもタイトルマッチを成立させようとしないと」と一喝。さらには「三沢(光晴=故人)さんだって、俺と同じ気持ちじゃないかな。絶対に『いいんじゃない』とは言わないだろう」と、小橋は団体創設者であり初代GHC王者だった三沢さんの気持ちまで代弁。やりきれない表情で会場を後にした。

 この厳しい声をノア勢はどう聞くのか。誰も奮い立たないようならば、本当に方舟はマット界の藻屑(もくず)と化すことになる。