東京五輪に出場したアスリートたちにプロレス界からも熱い視線が注がれている。新日本プロレスと女子プロレス「スターダム」を率いるブシロードの木谷高明会長(61)は「人材面の充実」を長年の課題としており、五輪戦士の獲得に意欲を燃やす。国内の男子では1992年バルセロナ五輪出場の中西学以来29年ぶり、女子では初となるオリンピアンのプロレス転向が実現すれば話題性は抜群。逸材だらけの東京五輪出場選手の中で、スーパースター候補の最有力は――。

 6日間にわたり行われた東京五輪は、各方面から大きな注目を集めた。プロレス界もその例外ではなく、期間中の7月25日に新日本の東京ドーム大会を視察に訪れた木谷会長は「来年1年間が団体創立50周年じゃないですか。大会以外でもどうやっていくのか、プロジェクト的な話になると思うんですけど、大きいことをやりたいですよね」と語る一方で、団体の長年の課題として人材面を挙げた。

「ぜいたくな話なのかもしれないですが。しばらく(日本人の)五輪選手に縁がないじゃないですか。レスリングだけではなくて、他の競技でもいいと思うんですけどね」

 もちろん他競技からのプロレス転向は本人の希望があってこそのもの。それは百も承知の上で、今回の出場選手の中でレスラーの素質を持つのは誰なのか。木谷会長の〝スカウト指令〟を受けた新日本の大張高己社長が最初に名前を挙げたのは、自身も選手として活躍したバレーボールの西田有志(21=ジェイテクト)だ。

「(186センチの)身長とスピード両方を兼ね備えている。バレーボーラーならそれで100点なんですけど、そこにパワーがある。200点ですよ。彼は逸材だと思うな。どんなスポーツをやっても一流だと思います」と絶賛。西田はイタリア1部リーグへの移籍が発表されたばかりだが、平均的にバレーボールと比べてプロレスは選手寿命が長い。引退後の転向でも大歓迎だという。

 さらに大張社長は空手男子形の喜友名諒(31=劉衛流龍鳳会)と柔道男子100キロ級のウルフ・アロン(25=了徳寺大職)の金メダリストにも注目。「喜友名選手は引きつける力をすごく感じました。お客さんがいなくても魅了してましたよね。レスリングは『TEAM NEW JAPAN』でカバーできてる部分もあるのですが、柔道からはしばらく入ってないですし、ウルフ・アロン選手なんて出来上がってますよね。華もありました」と高い適性を見いだす。喜友名はプロ転向に消極的との見方が多いが、総合格闘技イベント「RIZIN」からもラブコールを受けていることからも逸材ぶりがうかがえる。

 今大会で活躍が目立った女子選手の受け皿となるのは、2019年12月からブシロードグループ入りしたスターダムだ。ロッシー小川エグゼクティブプロデューサーが「まあ無理でしょうけど」とダメ元で名前を挙げたのが柔道女子52キロ級の金メダリスト・阿部詩(21=日体大)だ。「そりゃ来てくれるなら最高のスター候補ですよ。全てが整ってます。(林下)詩美VS詩なんて夢のカードです」と目を輝かせた。

 レスリングからは62キロ級の川井友香子(23=ジャパンビバレッジ)と50キロ級の須崎優衣(22=早大)のスター性にも着目。「友香子選手は肉体的にも女子プロレスの王道を行けるような体。須崎選手は技が多彩で圧勝でしたし。2人ともルックスも大きな魅力ですね。次(パリ五輪)もいけそうな人ばかりですけど」とべた褒めする。

 そしてもう一人、空手の女子形で銀メダルを獲得した清水希容(27=ミキハウス)も「華やかですし、即戦力になりそうですよね。長与千種も最初は空手でしたし」と太鼓判を押した。

 日本の女子プロレス史で、五輪出場経験のある選手はいまだに存在しない。だが小川氏は「選手の収入も上がってきてますし、やりがいのある世界にはなってきている。2~3年でパッと咲いていきなりチャンピオンになれる人が出てきてくれたら」と熱望する。2年半の活動でトップになった愛川ゆず季の例もあるだけに、短期間でも挑戦する価値はあるという。

 木谷会長は過去に12年ロンドン五輪のレスリング男子フリー66キロ級金メダルの米満達弘などに1億円以上の契約金を用意するオファーを明言したこともあるだけに、仮にここで名前が挙がった7選手がプロレスに興味を示せば破格条件が用意される可能性は高い。果たしてこの中に、将来的に四角いリングに上がるアスリートは現れるのか。