全日本プロレス「王道トーナメント」優勝決定戦(28日、大阪・ボディメーカーコロシアム第2競技場)は、潮﨑豪(32)が諏訪魔(37)との死闘を制し、初優勝を果たした。これで旗揚げ記念シリーズとなる10月29日の山形市総合スポーツセンター大会で3冠ヘビー級王者ジョー・ドーリング(32)に挑戦することが決定的に。全日本に参戦して1年7か月、ようやくシングル戦線で勲章を手にした裏には亡き祖父への誓いがあった。

 3冠王者のドーリングにゼウス、そして宮原健斗を下して決勝のリングに立った潮﨑と対峙したのは諏訪魔だ。準決勝で前大会覇者の曙を下した勢いそのままに序盤は相手の猛攻にさらされた。

 5分過ぎには早くも万力スリーパーの餌食に。意識が遠のき、しばらく動けなかった。潮﨑もチョップで応戦するが、足腰に力が入らない。しかも合計5度もヘビのようにまとわりつかれた。15分過ぎには諏訪魔が大一番にしか出さないトペまで食らい、絶体絶命の大ピンチ。だが、必殺のラストライドだけは許さず、耐え続けた24分過ぎだ。カウンターのラリアートで場外まで吹っ飛ばすと、跳躍力抜群のプランチャを放つ。これで流れを変えると、ゴーフラッシャーから、最後は手と首をクラッチして顔面から叩きつける奥の手・リミットブレイクで諏訪魔を沈めた。

 試合後は、ベルトを持ってリングサイドに現れたドーリングに英語で「もう断る理由はないだろ? 俺に挑戦させろ」と呼び掛けた。王者も握手で返し、10月29日の山形での3冠挑戦が確実になった。「各地の声援が王道トーナメントの空気を作り、俺の支えになった。ドーリングを止めるのは、俺しかいない」

 トーナメントにかける気持ちは誰よりも強かった。23日に地元・熊本でデビュー10周年記念大会を行った潮﨑は翌24日、妻と昨年11月に誕生した娘とともに、2月に他界した祖父・幹男さん(享年89)の墓前にいた。

 7か月前にかなわなかったひ孫の姿を、初めて祖父に見せることができた。

 ここまで唯一の心残りだった。今年2月14日の熊本大会、潮﨑はインフルエンザのため欠場。病床の祖父を見舞う予定だったが、かなわなかった。運命のイタズラか、試合当日に祖父は帰らぬ人に。

「あの時の自分が情けない。トーナメントは祖父にささげるじゃないけど、生まれ育った熊本に恩返しができればと思っていた」(潮﨑)

 警察官だった幹男さんは厳格だったが、常に孫のことを気にかけてくれた。幼少時、ジャッキー・チェンのまねをするたびに「もっとやって」と楽しみにしてくれた。夢がかない、プロレスラーになった潮﨑を常に応援してくれたのも祖父だった。活躍を報じる新聞記事をスクラップし、大切に保管していたと聞いた。だからこそ「いつか3冠ベルトを持って、地元に帰りたい」。王道マットの至宝を手に祖父が眠る熊本へ――。目標が定まった豪腕男はこのまま突き進む。