〝幻の猪木襲撃事件〟小川と抗争中の最中…橋本真也さん米特訓の極秘内幕

2021年04月22日 11時30分

橋本さん(左)はロスで猪木襲撃を企てたが…(新日本離脱後の01年5月、サンタモニカで)

【鈴木ひろ子の「レスラー妻放浪記 明るい未来」1】「明るい未来」は見えた!? 世界最大のプロレス団体「WWE」で活躍したKENSO(ケンゾー=46)&鈴木ひろ子氏(46)夫妻による新連載「レスラー妻放浪記 明るい未来」がスタート! アナウンサーからプロレスラーの妻、さらには人気ディーバに千葉県議会議員とマルチな活躍を続けるひろ子氏が、現役レスラー兼テレビマンの夫とともに波瀾万丈のプロレス人生を振り返る。第1回のテーマは“破壊王”こと故橋本真也さん(享年40)による「幻のアントニオ猪木襲撃事件」だ。

 アントニオ猪木というレスラーのオーラは特別です。ケンゾーと猪木会長との出会いは、もちろん新日本プロレス。時は「小川VS橋本」抗争の真っただ中。ケンゾーは橋本真也選手のロスでの極秘特訓に付け人として同行していました。

 大事な一戦を前にしての極秘特訓です。さぞかし緊迫しているかといえば、そうでもなかったようでした。

「ケンゾー、まずは日焼けじゃ」。ラグジュアリーなホテルでのんびり日焼けを始めたかと思えば「ケンゾー。うまいもん食うぞ」。

「まずは」が延々と続き、なかなか練習にたどり着かない。ようやく橋本選手の口から「練習」という言葉が出たかと思えば「ケンゾー。ヒヤリを用意しろ」。

 火槍で何をする気か尋ねるケンゾーを前に、橋本選手のイメージはすっかり出来上がっていました。「お前が火槍を俺に刺すんじゃ。どうや、ええやろ? 東スポを呼んだれ」

 そんな空気の中、いつものようにプールサイドで日焼けを終えて、食事をしようかと思っていたところ、橋本選手に情報が…。

「ケンゾー、小川がロスにいるらしいぞ」

 ケンゾーも思わず「マジですか。猪木会長と一緒ですかね」。

「そうだろ。猪木会長は一緒のはずだ」

 当時、猪木会長はロスに住んでいました。小川選手がロスにいるとなれば、猪木会長と接触しないわけがない。

「会長にも会いにいかなあかんしな…」

 橋本選手が何やらもごもごと独り言を繰り返している。神妙な面持ちで橋本選手が言いました。

「襲撃するぞ」

「襲撃?」

「襲撃じゃ。小川がおるのに行かんのじゃ、猪木会長に悪い」

 それは「あいさつではないか」とケンゾーは思いましたが、口には出せません。なるほど…とうなずいていると、橋本選手のイメージがどんどん固まっていく。橋本選手は全ての行動を、こうした「勘」で決めていました。

 かくして、橋本選手は同じロスに滞在している小川選手を襲撃することを決めましたが、準備はしていません。

「それじゃ、行くぞ」

「いつですか」

「今じゃ!」

 慌てて用意しようとするケンゾーを橋本選手が止めて「ええよ、せっかくだからお前はそのまま飯、食ってろや」。

「襲撃」のはずですが「ちょっと行ってくる」という具合で、橋本選手は出かけて行きました。

 もちろん、東スポ記者も同行。「東スポと行くぞ、どうや? ええやろ」。ケンゾーは橋本選手の部屋のツケで優雅な食事を堪能しました。仕事もなければ気を使うこともない。お酒を飲まない橋本さんに気を使うことなく思う存分ビールも飲める。一人の時間を満喫していると、遠くから大男が寄ってきたんです。

「橋本はどうした?」

 アジア人とは思えない骨格に特徴的な長い顔。その存在感がすさまじく、遠くにひと目見ただけで素人ではないと感じました。

 それはまさしく猪木会長…。リングや会場で遠目に見る姿とは違う。すさまじいオーラを放っており、会長はちらりと周囲を確認した後、ケンゾーの横に腰を下ろしました。

「一人か?」

「はいっ」

 ケンゾーは慌ててビールを置きました。座ったまま背筋を伸ばしてみても、赤らんだ顔は隠せない。

「一人…であります」

「橋本は?」

 答えに困った。橋本選手の行動をどう説明すべきか、口下手のケンゾーには難題過ぎです。

「しゅ…うげきに…行きました」

「しゅうげき?」

「小川さんが、このロスにいると聞いて、襲撃のごあいさつに」

「……」

 気まずい沈黙。橋本選手が会いに行ったはずの会長がここにいる。会話の中には猪木会長に対する発言が、一つも入っていませんでした。橋本さんは会長がそこにいると思って出かけているということを伝えなくてはと焦りました。

 ケンゾーは元来、天然です。人の気持ちを察することなんぞできるタイプではない。だから気遣いがあだになり「襲撃すれば、猪木会長もいらっしゃるだろうと」。

 こうしてケンゾーは、初めて猪木会長と面と向かったのです。

 これからしばらくしてケンゾーはリング上であの言葉をぶちまけます。

「猪木会長! 明るい未来が見えませんっ!」

 猪木会長も、当のケンゾーも結局、しばらくして新日本プロレスとたもとを分かった。縁というのは不思議です。ニューヨークに渡っても、そこからメキシコにいる時も、帰国後全日本プロレスと契約した際にも、そして私の政治家としての歩みでも、この後、鈴木家の節目には、必ずと言っていいほど猪木会長が登場するのです。

 ☆すずき・ひろこ 1975年2月14日生まれ。千葉・船橋市出身。明大卒業後に福島中央テレビにアナウンサーとして入社。2003年にケンゾーと結婚し翌年に渡米。WWE入りした夫とともに、自身は日本人初のディーバ「ゲイシャガール」として大活躍。ハッスルやメキシコマットでも暴れ回った。現在は政界に転身し、千葉県議会議員を務める。一児の母。

  ☆ケンゾー 本名・鈴木健三。1974年7月25日生まれ。愛知・碧南市出身。明大ラグビー部を経て一度は就職するが、99年に新日本プロレス入り。2002年2月にアントニオ猪木から当時混乱していた新日本の現状を問われてリング上で「僕には自分の明るい未来が見えません」と発言したのは語り草だ。その後は米WWE、ハッスル、全日本プロレスなどで活躍。現在は共同テレビジョン勤務。191センチ、118キロ。

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