【龍魂激論⑦後編】前田日明氏が天龍に明かす カレリンを引退試合の相手に選んだ理由

2020年08月27日 14時00分

前田は強烈な蹴りでカレリンをぐらつかせた(1999年2月21日、横浜アリーナ)

【天龍源一郎vsレジェンド対談「龍魂激論」(7=後編)】ミスタープロレスこと天龍源一郎(70)がホスト役を務める「龍魂激論」にリングスCEO・前田日明氏(61)を迎えた3回連載の最終回では、両雄の引退試合にまつわる秘話が明かされた。前田氏がレスリング五輪3連覇の“元祖・霊長類最強男”アレクサンダー・カレリン氏(52=ロシア)を最後の相手に選んだ理由は何だったのか。また主宰するアマチュア格闘技大会「THE OUTSIDER」による今後の世界戦略とは――。 

 ――前田さんはリングスで海外から強豪選手を発掘。「THE OUTSIDER」でも多くの選手を育てた

 前田氏(以下前田)現役時代は若い選手を教えるのは苦手でした。変な競争心が湧いちゃって、教えたら強くなるんだろうなと思っちゃう。育成はできなかったけど、選手の発掘はできたかなとは思います。

 天龍 ロシアから未知の選手をピックアップして超一流の価値をつけた手腕はすごいよね。実はWAR時代にヴォルク・ハン(ロシア)を呼びたいと思った時期があったんです。前田選手が日本のプロレスに異分子をちりばめたでしょ? 俺も開き直っていた時期だったから、前田選手が使い終えたハンにちょっかいを出して、2分か3分で負けてもどうってことないと思っていた。団体がランクアップすればそれでいいと。

 前田 武藤(敬司)もヴォルク・ハンとやりたいと言ってました。「毒霧吹いて、どうやってハンと戦うんだよ」と言いましたけど(笑い)。

 ――引退試合(1999年2月21日、横浜アリーナ)のカレリン氏招聘は世界中が驚いた

 天龍 俺はその試合に行ってるんですよ。あのカレリンを引っ張り出したんだから、日本スポーツの歴史でもトップランクの快挙だよね。どこに行っても、「どうだ」と胸を張れる試合でした。

 前田 あと20年か30年はたたないと、本当の価値は分かってもらえないんじゃないですかね。

 天龍 超一流とはいえ、カレリンの功績がまだ完全に世間に浸透していないからね。

 前田 あれはゴリラでしたよ、ゴリラ。いろいろ言われたけど、ファイトマネーは2万ドル(当時約230万円)ぐらいでした。国家の英雄だから関係者の経費はかかりましたけど。

 天龍 ギャラよりも、殺されるかもしれない相手と戦う勇気があるかないかだよね。例えば俺が引退試合で全盛期のカール・ゴッチと戦ったとしても、じゃあどう攻めて、どう受けて、最後はどうカタをつけるんだよってちゅうちょしますよ。

 前田 最後の試合ですし、勝ち負けより2つの目標があったんです。3本勝負だったから、1本カレリンから取る。それとタックルしてテークダウンを取る。俺、これができたらレスリングやっている人間に一生自慢できるなと。「俺はカレリンからテークダウン取ったぞ。お前、できるか?」って(笑い)。1本は取った(アンクルホールドでエスケープポイント奪取)けど、テークダウン取りにいったら全然動かない。逆に首にビビッと衝撃が走って動かなくなった。奇跡の上に奇跡が起きないとテークダウンは奪えないと思いました。

 天龍 超満員だし「前田日明らしい、いい引退試合だったな」と思いました。そういう試合は、ほとんどないじゃない。

 前田 俺は「カレリンは何で五輪4連覇できなかったか知ってるか? 俺と戦って1本取られて足をケガしたからやんけ」って一生言おうかと思います(笑い)。俺も天龍さんの引退試合(2015年11月15日、両国国技館)に行ってます。天龍さんが気の毒でした。

 ――と言いますと

 前田 オカダ(カズチカ)を怒らせようと、顔面に危ない蹴りを入れても「何でこんな痛いことするのかな…」という表情を浮かべるだけなんですよ。あそこでムカッとなって出れば面白かったし、天龍さんはそれを狙っていたのにやりにくそうで。妙な間が空きましたね。

 天龍 そうそう。張り手でもかましてほしかったね。俺みたいなオールドタイマーと戦うから、余裕を見せたかったんじゃない。ドロップキックの後に場内を見渡してるんだよ、あのヤロー。

 前田 あれは武藤のマネですよ。妙に余裕持って、かっこつけるのを若い人間に教えちゃった。

 ――指導者としての前田さんに期待することは

 天龍 泰然自若の構えを崩さず世の中に迎合せず、自分の生き方を貫いてほしい。前田日明という存在に憧れてる人間は多いと思う。今やっている「THE OUTSIDER」だっていろいろ大変でしょうけど「俺は俺の道を行く」という気概が伝わる。素晴らしいと思います。

 前田 光栄です。ありがとうございます。今後はまず「THE OUTSIDER」を復活させて、日本人のヘビー級選手を育てて、(世界最大の米総合格闘技団体)UFCに出したい。それも1人じゃなく3人ほどでかい選手を育て、競い合わせて米国に送り込めれば。

 天龍 それは期待大ですね。でも前田選手と戦えなかったのは、唯一の悔いですよ。本日は長時間にわたり、ありがとうございました。

 前田 試合をしたら手が合ったかもしれないですね(笑い)。天龍さんもいつまでもお元気で。

 ☆まえだ・あきら 1959年1月24日生まれ。大阪市出身。78年8月に新日本プロレスでデビュー。84年に第1次UWFに参加後、88年に第2次UWFを旗揚げ。91年にはリングスを立ち上げた。99年2月に「霊長類最強の男」と呼ばれたレスリング五輪3連覇のアレクサンダー・カレリンとの一戦で現役を引退。その後も海外との人脈を生かして数々の強豪を招聘し、2008年3月からアマチュア格闘技大会「THE OUTSIDER」を主宰する。現役時は192センチ、109キロ。

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