日本の夏よ。ハル・ミヤコ女史(年齢非公開)率いる新生IWAジャパンのUMA軍団が13日、お盆を機にクラシカルな和風新戦力を獲得した。

 くいしんぼう仮面率いる「OSW(オーサカ・スタイル・レスリング)」は9月1日、東京・足立区の芸術センターホワイトスタジオで旗揚げ戦を行う。ハル女史はすでに軍団・第三の男(詳細不明)を派遣することを発表しており、兜王ビートルとのシングル戦が決まっている。

「オッホン。第三の男だけだと思ったら、ノンノンとんでもな~い。決戦当日は第三の男をよりパワーアップさせるUMAを送り込むわ。日本は今、お盆の真っただ中。町中には数え切れないほどのソウルがあふれかえり、まるでデトロイトのようです。その事実に気がついた私は独特の方法で新たなUMAの獲得に成功したのです」とハル女史は赤いメガネの縁を指で押し上げると、目をキラリと輝かせた。

 かなりざっくり説明しよう。こう見えても日本人女子の血が流れるハル女史はUMA軍団の本拠地・荒川土手で12日夕、盆火をたいて祖先に敬意を表していた。すると夕暮れの荒川土手にゆらりと妖気を漂わせた奇妙な男の姿が…。明治時代の名作家・小泉八雲の作品にも登場する妖怪「のっぺらぼう」だ。

「……」。無言で盆火の前に立ったのっぺらぼうは、いわゆる江戸時代から伝わる顔がつるんつるんのクラシカルな妖怪ではない。着物に帽子をかぶった明治時代の書生のような異様な姿は、むしろ泉鏡花の名作「草迷宮」を連想させる。もっと乱暴に言い切れば、1960年代の暗黒舞踏のなれの果てのようにも見える。そもそも妖怪とお盆はあまり関係ない。

 さらに肩からは「ヨッシャー!」の英字が入った真っ赤なショルダーバッグが…。妖怪になる前は、かなりハイカラな存在だったと思われる。

「ユーは私がUMA軍団のリーダーだと分かった上で降臨したんでしょう?」(ハル女史)、「……」(のっぺらぼう)、「よく分かりました。ユーを獲得した事実を敵軍のくいしんぼう仮面に伝えます。もしやる気があるなら、明日この時間、またこの荒川土手に降臨なさ~い!」(ハル女史)

 奇跡的な魂の交流の後に、ようやくのっぺらぼうが人語を発した。「ここは天国かい?」(のっぺらぼう」、「いえ、荒川土手です」(ハル女史)。まるで名作「フィールド・オブ・ドリームス」(89年作)の名場面のような感動的な会話の後、のっぺらぼうは荒川土手の草の中へゆっくりと消えていった。

 ハル女史はさっそくOSWにこの事実を通達して出頭を命令。くいしんぼう仮面は14日夕に荒川土手に座ると「怖いなあ、嫌やなあ…。のっぺらぼうって一体どんな顔や……」とつぶやきながら、なぜかそばをすすっていると、背後からゆらりと怪しい影が…。気がつけば、のっぺらぼうが「こんな顔でしたか?」とささやいてきたからビックリだ。

「出たあ~!」と叫ぶや、くいしんぼう仮面はそばのどんぶりを捨てて逃げ去ってしまった。その光景を土手上道路のUMA軍専用車両から双眼鏡で眺めていたハル女史は「オーホッホ、作戦大成功だわ。のっぺらぼうの次は、いよいよイントロデュース・ザ・サードマンよ! そしてミスター浅野、アナタのツルツルのお肌にもいずれ落雷が落ちるわ!」と高笑いを決め込んだ。

 一方その時、IWAジャパンの創設者・浅野起州前社長(66)は、酷暑でサッパリ客足が伸びない新宿二丁目の定食屋「花膳」のカウンター内で、有線から流れるショッキング・ブルーの「ヴィーナス」を聞きつつ「ヴィーナスっていい響きですねえ…。夏が終わったら麻婆茄子定食でも始めようかしら。ハイッ、お客さん、ヤクルト1本出血大サービス!」と無駄口を叩きながら、もう肩を叩き始めている恐怖の瞬間を全く予測できずにいた。