“燃える闘魂”アントニオ猪木参院議員(76=無所属)が5日、本紙直撃に改選を迎える今夏の参院選への不出馬を明言した。1989年にスポーツ平和党、2013年には日本維新の会から出馬・当選し、通算2期12年に及んだ政治家生活にピリオドを打つ猪木氏の胸に去来する思いとは――。

 猪木氏は今年2月に当時自由党共同代表だった小沢一郎氏(現・国民民主党総合選挙対策本部長相談役)の打診を受けて国民の会派入りを発表。その際、参院選出馬の可否について「一寸先は闇ではなく、ハプニング!」とはぐらかしていた。

 7月実施が有力視される参院選が1か月後に迫り、猪木氏が国民から比例代表候補として出馬すると報じられると、その真意を確かめる問い合わせが殺到していた。猪木氏の答えはこうだった。

「国会で会派を組む国民は、参院選に向けて立憲民主党との選挙協定を巡ってゴタゴタした。私は野党内の主導権争いが小さく思えた。ならば議員バッジを外し、平和運動を続けよう。この思いに至り、参院選不出馬を決めていた。政治家引退? うん。次の衆院選があっても出馬しない。政治家は引退する。でも政治に関わった以上、政治と無関係ではいられないだろう」

 長年にわたり北朝鮮との交流を続けてきた猪木氏は、今月21~26日の日程で北朝鮮を訪問して政府要人との会談が予定されているとの報道がされた。会期中の外国訪問は、参院の許可が必要となり詳細な手続きを行わなければならない。

「今月の訪朝は“ノー”です。国会は法案審議などでバタバタだし、急いで訪朝することは考えていません。今後は、私に政治家という肩書がなかった方が、日朝が会話できる環境づくりに向けたスポーツ民間外交がやりやすくなる」

 猪木氏は、安倍晋三首相が前提条件なしに北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との日朝首脳会談の実現を呼びかけたことに関し「ひと言ものを申しあげたい」と訴える。

 北朝鮮は、是が非でも日朝首脳会談を実現させたい安倍政権の姿勢を「ツラの皮が厚い!」と厳しく非難。現在、日朝間交渉は舞台裏でどんな政治的な駆け引きが行われているのか?

「私が知る限りだと、北朝鮮は首相官邸が経済制裁も解かない状況の中で『安倍首相は何をしに金正恩委員長に会いに平壌に来るのか…』と不快に思っている。交渉にあたる外務省スタッフは数人だというし、北朝鮮に信頼されていない状況の中で、日朝首脳会談を実現させるのは無理です」

 日朝首脳会談への道筋は険しく映るが、猪木氏にはあるアイデアがあるという。

「来年の東京五輪・パラリンピック大会で、参加国の選手村(編注・事前キャンプ地)の候補地が決まる中、北朝鮮選手団に関してまだ何も決まっていない。私は首相官邸が、北朝鮮に対する経済制裁が日米間の連携もあって解除が難しいというのなら、北朝鮮側に『特例を作って北朝鮮選手団を受け入れる準備がある』と示せば、日朝首脳会談に向けての扉が開く可能性があると思っている」

 永田町ではなぜ猪木氏のパイプを使わないのかと叫ばれ、官邸内でも猪木ルートを模索した時もあったといわれる。

「私は師匠、力道山先生の生まれ故郷である北朝鮮でスポーツ外交やイベントを行ってきた。政治家としての集大成としても安倍首相から要請があればいつでも大役を引き受ける。だが要請はないだろう! ムフフ…」

 議員バッジを外しても政治や外交に意見することが禁じられるワケではない。日朝関係が改善されていない中、身軽になる“燃える闘魂”にますます火がつくことになりそうだ。