アサヒビールが28年ぶりに復活させた缶ビール「アサヒ生ビール」を皮切りに“復刻商品”に注目が集まっている。そんな中、流通ウォッチャーの渡辺広明氏(54)は「懐かしさだけで復刻してもブームにはならない」と指摘。商品開発のプロフェッショナルが考える復刻ヒットの法則とは――。
 
 9月14日に発売されたマルエフこと「アサヒ生ビール」は年内に150万箱を販売する計画だったが、9月出荷分だけで供給を超える80万箱超の注文が殺到し、16日に受注を取りやめた。

 この報道でさらに人気が過熱したことでフリマアプリ「メルカリ」では高額転売が相次ぎ、発売元のアサヒビールとメルカリが連携して注意喚起のメッセージを表示するという異例の事態となっている。復刻商品のマルエフはなぜこれほどまでヒットしたのだろうか?

「要因はいくつかあります。まず、28年ぶりということは、以前のマルエフを飲んだことがある人は基本的に48歳以上になってます。日本では1971~74年生まれの人口が多く、いわゆる団塊ジュニアと呼ばれる人たちにとって懐かしさを呼ぶビールであったこと。さらにCMに新垣結衣さんを起用し、復刻でありながらデザインを一新して若者を取り込むことにも成功したところが大きい。コロナ禍のプチぜいたく志向も後押しした側面があるでしょう」(渡辺氏)

 今年創立40周年を迎えたファミリーマートは、同じく40周年のサントリー烏龍茶とコラボして「復刻版 サントリー烏龍茶」を限定発売しているが、これもただ商品を復刻しただけではない。

 40歳になった女優の安達祐実、そして創刊40周年となるファッション誌「CanCam」(小学館)とコラボした特別コンテンツ「サントリー烏龍茶×安達祐実『濃い40年でしたね』」を公開しているのだ。

「うまい企業コラボ案件ですよね。安達祐実さんが幼少期の写真と同じポーズ、同じ構図で完全再現するタイムスリップ写真などは若者言葉で言ったら“エモい”ということになるし、40歳になっても若々しくいられる自分でありたいと思わせるものでもある。単なる回顧に終わっていないところがポイントだと思いますし、団塊ジュニア世代と若者のトレンド世代が交差するところでやっとブームとなるのでしょう」(渡辺氏)

 バブル世代に明日への活力を与える雑誌として存在感を示すのが、「昭和40年男」(クレタパブリッシング)だ。2009年に創刊し、昭和40年生まれの男(=今年56歳)が夢中になったオモチャやテレビ番組、ゲームや音楽を掘り下げる特集が多く組まれることが特長。19年には団塊ジュニア世代に当たる「昭和50年男」を創刊し、今年5月には女性向けに「昭和45年女・1970年女」を創刊した。45年女の創刊号は漫画家の江口寿史氏が書き下ろしたとして話題になった。

 同社の編集部員に話を聞くと、「過去を懐かしむだけでなく明日への元気と夢を満載にすることが編集コンセプト」だそうで、同世代の編集者が目を輝かせて働いているという。

「少子高齢化が進む日本で明るい未来を想像することが難しくなってきている。だからこそ商品開発の観点でも“明るい未来”をどう落とし込めるかがカギになっていますね」(渡辺氏)

 子供のころに想像していた21世紀を改めて思い出し、再び夢と希望を取り戻すのは面白そうだ。 

【休刊雑誌の作品も!】昭和60~64年に発行されていたマンガ雑誌「わんぱっくコミック」がデジタル化したことでも、40代読者が歓喜している。

 19年からアーカイブ作品の発掘に取り組み中の徳間書店は休刊になったマンガ雑誌の掲載作品の電子復刻に着手。

「刊行当時のスタッフはみな定年退職して誰もおらず、最初は著者の連絡先もわからなかった。ただ始めてみたら著者も読者もこの企画に驚がく感激してくれて、マンガだけでなくゲームの復活やアニメ化を望む声も出ています。未完作品の完結を望む声に著者が応えたいと意欲を示しているケースもあるほど」(デジタル推進部・左田野渉氏)

 ツイッターやnoteで情報発信することで、かつての読者たちとの絆を取り戻している点も面白い。 

☆わたなべ・ひろあき 1967年生まれ。静岡県浜松市出身。「やらまいかマーケティング」代表取締役社長。大学卒業後、ローソンに22年間勤務。店長を経て、コンビニバイヤーとしてさまざまな商品カテゴリーを担当し、約730品の商品開発にも携わる。著書に「コンビニが日本から消えたなら」(KKベストセラーズ)。