全国で増殖中の「変な名前のパン屋さん」 仕掛け人・岸本拓也氏を直撃

2020年10月07日 11時00分

岸本氏(切り込み写真)が手掛けたのは「エモいよ君は」と、目を引く店名だ

 食欲の秋到来! パン好きは必読だ。「考えた人すごいわ」(東京、広島ほか)、「エモいよ君は」(東京)、「いつかの馬鹿ップル」(兵庫)、「夜にパオーン」(静岡)、「なま剛力スタジアム」(群馬)――。ここ数年、全国で奇妙な名前の高級食パン店が増殖中だ。派手な外観も加わり、一見してパン店には見えないが、どこも毎日のように完売する超人気店。その仕掛け人のベーカリープロデューサー、岸本拓也氏(45)を直撃した。

「なま剛力スタジアム」は女優・剛力彩芽が自ら訪れ、インスタに写真を投稿。三重県の「朝のらしさ」はサッカー元日本代表・浅野拓磨がオーナーを務めるなど、岸本氏のプロデュース店は芸能界、スポーツ界からも注目され、「出店したい」という相談もあるという。

 店名と店舗デザインを決めているのは岸本氏。大学卒業後の1998年に外資系ホテルに就職し、マーケティングを担当する中でパンの“伸びしろ”に気づき、退職後の2006年、横浜市内にパン店をオープンした。

 独立前は和食、居酒屋、今川焼き店も考えたが、「パンは総菜パンもあればデザート的なものもあって幅が広く、手軽にグルメ感を味わえる。パンが普及したのは戦後で、市場は今も成熟しきっていません。相当いろんな展開ができるんじゃないか」とパンを選んだ。

 全国でプロデュースするきっかけは、11年の東日本大震災。津波によって店がなくなった岩手県大槌町から「パン屋が欲しい」と相談を受け、コッペパン店をプロデュース(13年に開業)。プレハブの外壁を「アートは物事を変えられる」とピンクの水玉模様に塗った。

 この店が町民に喜ばれたことから「パン屋で町を元気にする」というコンセプトを軸にするようになった。胸がザワッとする店名と派手な外観は、こうした考えに基づいたものだ。

 15年には食パン専門店の開発を始め、2年かけてレシピを完成させた。こだわったのは「風味と食感と値付け」。そして「うま過ぎないこと」。

 岸本氏によれば「バターたっぷりとか、うま過ぎるパンは毎日食べてもらえない。また、口に入れた時に唾液を持っていかれるのは避けたい。水分を含み、ほのかに甘く、喉で消えるような喉ごしを目指しました。耳まで軟らかいのも大切です」。いわゆる“食通”の声は一切聞かずに高校生や大学生に試食を頼み、レシピを完成させた。

 ネーミングについては「シュールに見えるけど、誰でも知っている言葉です。ひらがなを入れて覚えやすくしています。ブーランジェリー〇〇とか、麦の〇〇は、都会ならいいんでしょうけど、1万人ぐらいの町でお年寄りから子供まで食べてもらうには、分かりやすさが必要」。

 同様に外観や紙袋を派手にするのは「町に溶け込むより、際立たせてひと目で分かってもらうため」だ。

 岸本氏はプロデュースを依頼されると、その町まで行って自転車で地形やファミレスなどの数、住民の年齢構成や傾向を探り、その地域ならではの店舗案を練る。

「地域の個性を大事にして考えているので、土地を知らないと店をつくれない」

 店の名前と外観が場所ごとに変わるのはこのため。加えて「『うちの町にこんな変な店がある』とお土産需要が生まれる」のも狙いだ。

 岸本氏がプロデュースする食パン専門店は6日現在131店舗。まだまだ全国で増殖中で、年内に150店前後まで増えるという。また8月には北海道・札幌にカレーパン専門店「カレーパンだ。」をオープン。「カレーパンはまだ大衆化していない」と、こちらのフランチャイズ化も目指すという。