ラベルレスは新たな価値だ! 7月からレジ袋の有料化でプラごみ削減に意識が高まる中、ペットボトル飲料にも変化の兆しが見られている。流通ウォッチャーの渡辺広明氏(52)と最前線を取材すると、エコだけじゃないラベルレスの魅力が明らかになった。


 新型コロナウイルスの影響でビールの売り上げが苦戦する一方、食料品を中心とした生活必需品の購入がEC(いわゆるネット通販)で伸びている。なかでも目立つのが“重くてかさばる”飲料の躍進だ。

「女性にとって2リットルペットボトル1ケース(6本入り、12キログラム)を運ぶのはかなりの重労働なので、玄関先まで持ってきてくれるECとはもともと親和性が高かった。だからこそニーズの高いお茶や水を中心にEC限定で9本入り商品(18キログラム)も展開されているんです」(渡辺氏)

 キリンビバレッジでは2018年8月から「アルカリイオンの水」9本入りをAmazon先行発売したのが好評で、19年3月からは取り扱いECサイトを拡大。今年6月からは「生茶」「午後の紅茶 おいしい無糖」の9本入りもラインアップに加わったという。

 さらにゴミの分別時にラベルをはがす手間を削減したラベルレス製品も登場し、主婦の支持を集めている。コカ・コーラシステムは8月3日にEC限定で「綾鷹」「カナダドライ ザ・タンサン・ストロング」「爽健美茶」のラベルレス3製品を発売。同社の広報担当者によると「新しい生活様式による家庭内需要の増加に伴う消費者ニーズに対応しての導入」だという。

 18年から「アサヒ おいしい水」などでラベルレス飲料を展開しているアサヒ飲料では、昨年は年間販売目標の100万箱を達成。150万箱の出荷目標を掲げる今年も6月までに84万箱を記録し、前年比218%と好調に推移している。

 ラベルレスによるプラごみ削減はどれくらいになるのだろうか?

「今年4月の識別表示に関する制度変更に伴い実現した完全ラベルレス商品だと、通常のラベル付き商品と比較して年間7トンの樹脂量削減を見込んでいます。また、ラベルレス商品全体として約60トンのCO2削減も見込んでおります」(アサヒ飲料の広報担当者)


 ラベルレスの魅力は利便性とプラごみ削減にとどまらない。ブランディングを主軸としてラベルレスに挑戦したのがサントリー「伊右衛門」だ。

 サントリー食品インターナショナルジャパン事業本部ブランド開発事業部の多田誠司氏はこう話す。

「これまでは竹筒をイメージしたラベルの伊右衛門でしたが、4月のリニューアル時に味と香りだけでなく、いれたてのような緑色の水色(すいしょく)にこだわったんですね。そこで『色を見せよう』と首掛けラベル商品を開発し、写真家の篠山紀信さんに“裸の伊右衛門”を撮影してもらいました。4月に数量限定で発売したところ大変好評をいただき8月25日から再度販売しております」

 いわゆるエコよりもマーケティング重視で誕生したラベルレス伊右衛門だったが、ラベルレス=コスト削減ではまったくなかった。

「食品表示法上、箱売りでない商品を完全ラベルレスにすることは難しいので首掛けラベルを採用したのですが、実はこれ、すべて手作業なんです。万が一、首掛けラベルが外れてしまった商品が陳列されてしまうことがあってはいけないので出荷前にはビデオ映像での確認もしています。また、ペットボトルの意匠にもこだわったので全体としてはコスト高なんですが、四角いボトルを採用して背を低くして物流費を削減するなど努力を重ねて発売にこぎつけました」

“裸の伊右衛門”は若い世代を中心に支持され、伊右衛門ブランド全体でも前年比50%増を記録しているという。

 取材を終えた渡辺氏がこう振り返る。

「コカ・コーラの『い・ろ・は・す天然水 ラベルレス』も専用デザインのペットボトルを採用しており、ラベルレスが増えれば増えるほど見た目でブランドが認知されるようなペットボトルの開発も進むでしょう。とはいえ、まだまだラベルもブランドを認知させる重要なツールなので一気にラベルレスが増えるとは思いませんが、ミニマル(最小限)消費を好む若い世代ほどラベルレスとも親和性が高く、少しずつ増えていく気がします」

 今後もラベル付きとラベルレスの“二刀流”から目が離せない。

☆わたなべ・ひろあき 1967年生まれ。静岡県浜松市出身。「やらまいかマーケティング」代表取締役社長。大学卒業後、ローソンに22年間勤務。店長を経て、コンビニバイヤーとしてさまざまな商品カテゴリーを担当し、約700品の商品開発にも携わる。新刊「コンビニが日本から消えたなら」(KKベストセラーズ)を刊行。