【週刊Mリーグ】土田浩翔が選ぶ〝この一打〟多井プロを追い込んだものとは?

2021年06月09日 16時00分

【写真1】「カン7筒待ち」を選んだ多井プロ【写真2】勝又プロにアガられるのを承知で7索を切った多井プロだが…【写真3】攻めのリーチ!ツモって倍満

【〝レジェンド雀士〟土田浩翔が選ぶMリーグこの一打・麻雀は人なり】トッププロの名勝負から麻雀を、そして人間を読み解く特別企画! 麻雀プロリーグ「Mリーグ」が創設された2018年から解説者として対局を間近で見てきたレジェンド雀士・土田浩翔プロが、終わったばかりのMリーグ2020を「麻雀は人なり」という観点で、全4回にわたって解説します。

<最速最強雀士の誤算>4チームで争ったファイナル(決勝)開始時点で、4位・EX風林火山と1位・渋谷ABEMASとは300ポイント以上の差がありましたが、初優勝を決めたのは風林火山。大逆転劇を、ABEMAS・多井隆晴プロ(49)と風林火山・勝又健志プロ(40)に注目して振り返ります。

 まずは多井プロ。Mリーグ2018では個人MVPに輝き、名実ともに最速最強雀士とうたわれている絶対エースです。

 麻雀における“理”を極めようと研究を積み重ね、その理と対局相手のあらゆる情報を自身の経験則に取り入れ、融合させて打っています。

 その打牌選択は、目の前にある局面に対してではなく、2~3巡後にはどういう局面になっているのかを常に想定しています。だから2~3巡後に自身が想定していない牌が河に出てきた時「あれっ?」と相手のヤミテンに気づき、アタリ牌を止めているのです。それがたまに見せる驚きの表情です。

 しかしファイナルでは、自分自身に「あれっ?」と思っていたはずです。

 私がそう感じたのはファイナル最終戦の東2局1本場。親番だった多井プロが8巡目に役なしテンパイを入れ、4筒をリーチ宣言牌とし、カン7筒待ちに構えた時でした(写真1)。

 リーチをかけるならもうひとつの選択肢があり、普段の多井プロなら8筒を切ってカン5筒待ちに受けている場面でした。なぜなら手牌構成のキー牌となりやすい3・7待ちをとにかく嫌っている上、4切って7待ちなんて出るわけないとよく言っていたからです。おそらく相手からは赤5筒は切られにくいと判断し、河の状況から5筒は最大残り2枚と“理”で考えた上で7筒待ちを選択したのだとは思います。

 ただ多井プロにしては珍しく、アガリを取りにいくのではなく、アガリを拾いにいったリーチに見えました。勝負の世界に“たられば”はありませんが、実際5筒待ちに構えていたらアガリがあったものの、最終的には5200点の放銃。ABEMASにとっては最悪の結果となりました。

<風向きはどこで変わった?>普段とは異なる選択をしてしまうほど多井プロを追い込んだものはなんだったのか…。それはサクラナイツとの一騎打ちになると想定していたファイナルが、風林火山との三つどもえの戦いになってしまったことでしょう。しかも12戦中10戦を終えた段階で、ABEMAS2勝、サクラナイツ2勝に対して風林火山は5勝。多井プロは首位に躍り出た風林火山の勢いを感じながら、最終戦を迎えていました。相手からの圧を感じ取ってしまうと、選択ミスは起こりやすくなるものです。

 そして思い起こせば、セミファイナル(準決勝)最終戦。勝又プロが最終局で2000点以上アガれば、2着目に浮上して風林火山のファイナル進出が決まるという状況下。そのアシストをしたのは、くしくも多井プロでした(写真2)。

 この結果、風林火山とファイナル進出を争っていたKONAMI麻雀格闘倶楽部はセミファイナルで敗退。私はこの時、多井プロにとっては予測不能な攻撃をしてくる麻雀格闘倶楽部、とくに佐々木寿人プロ(44)とはファイナルでは戦いたくなかったのではないかと見ていました。風林火山を侮っているわけではなく、これまで対局してきた経験則から、風林火山に対しては理路整然と戦ってくるチームだという印象を持っていて、想定外なことをしてこないので戦いやすいと感じていたのではないか…。

 こうして風林火山に吹き始めた風、勝負の勢いというのは、多井プロほどの一流のスキルを持ってしてもあらがうことも止めることもできず、最終日に勝又プロが一気に決着をつけたのです。

<優勝を決定づけたのは…>風林火山優勝の決め手となった一打は、勝又プロが最終日の第1試合でアガった親の倍満2万4000点です。

 東2局12巡目、親番・勝又プロに4・7索待ちで、ドラ4索なら三色同順も完成する跳満1万8000点のテンパイが入ります(写真3)。7索でもタンヤオ・赤2で出アガり7700点、ツモれば1万2000点です。

 勝又プロは前局に1万2000点をアガってリードしていた状況でした。したがってヤミテンに構え、確実にアガリを拾いにいこうと考えてもおかしくはありません。しかし「リードは広げよう」と腹をくくって最終戦に臨んでいた勝又プロは、アガリを拾いにいくのではなく、アガリを取りにいきました。

 ファイナルにおいては、勝又プロからすれば当たり前のことを当たり前のようにこなしたという感覚かもしれません。ただこの一打は、勝又プロが背水の陣で戦っていたことの証しでもあります。勝負事にはノーリスクハイリターンはありません。ハイリスクハイリターンの構えで戦わなければ勝利はもぎ取れないということを経験からわかっていたからこそ生まれたアガリなのです。

 今シーズン開幕前、風林火山の藤沢晴信監督はファイナルに進出できなければ、選手全員の入れ替えを宣言していました。叱咤激励の意味合いもあったとは思いますが、選手にとっては不退転の覚悟を抱くきっかけとなったいいプランだったと思います。この優勝は、言い換えれば風林火山の二階堂亜樹プロ、滝沢和典プロ、勝又プロの3選手がMリーグにとって必要だったということです。

☆つちだ・こうしょう 1959年、大阪府生まれ。血液型=B。最高位戦日本プロ麻雀協会特別顧問。Mリーグをはじめ「THEわれめDEポン」等、メディア対局にも数多く出演。札幌、東京、埼玉、大阪、広島、福岡で麻雀教室を開講中。著書は「『運』を育てる 麻雀界の異端児 土田浩翔の流儀」(KADOKAWA)ほか多数。

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