【田辺晋太郎の肉アカデミー】Nice to MEAT you! これからすごくなると確信したお店をご紹介しましょう。昨年夏、東京メトロ・神楽坂駅から徒歩7分の場所に開店したイタリアン「H―acca」です。
最近のフレンチ、イタリアンは、ゴテゴテの味付けより、素材にこだわり、味をいかす傾向にあります。仕入れはだいたい4~5店の問屋+こだわりの産直3~4店といった感じですが、こちらのお店は産直だけで50店以上。各地方から旬&おいしい素材が届きます。
その代表格が、私が愛してやまない「但馬玄」です。普通の肉は脂が溶け出す温度が25~26度なのに対し、但馬玄は12度。だから胸やけしません。
H―accaのオーナーさんが西麻布のフレンチ「蒼」で但馬玄を食べ、「ぜひうちの店でも扱いたい」となり、私が但馬玄の生産者さんをご紹介して取引が始まりました。だからどのように但馬玄が使われているのか、様子を見に行ったんです。予想を大きく上回る物が出てきました。
但馬玄はゆず釜に入ったたたきとして登場しました。叩いてタルタル状にしたものに、カリフラワーのピューレとコンソメのジュレ、そしてウニを合わせています。ここに脂っぽい肉が入ったら台なしですが、そこは但馬玄のもも肉。しかもシェフの料理法が優れていたんです。
焼いて、すぐ氷の塊につけて表面を冷やす。これを繰り返し、火を通しながら表面を焦がさないという、低温調理とも違う、手間のかかる火入れをやっていたんです。
こうして火を入れた但馬玄を、細かく叩くもの、食感を残すものと切り分けて入れます。しばらく食べたら、ゆずの蓋を搾って味を変えます。輸入物レモンなら酸味でパーになっていたでしょうが、ゆずの柔らかい酸味が味を高めます。素材がいい但馬玄にウニ、ゆずが、ゆず釜の中で見事な世界を作り上げていました。
こちらのシェフ、イタリア語が話せない状態で料理の勉強のためにイタリアに行き、猛勉強の末、最後はディレットーレ(支配人)まで任された人物です。イタリア人が認めたその料理は、実に繊細です。
このお店、ドリンクのペアリングも素晴らしく、ソムリエはアルコールだけでなく、ノンアルコールも見事なペアリングで提供してくれます。料理の成分を書き出し、五味(酸味、苦味、甘味、辛味、塩味)をチャートにして、それぞれに合う飲み物を出してくれるんです。ど変態です(いい意味で)。
こだわりのシェフ、クセの強いソムリエ、それを喜んで受け止めるオーナー。この店の人気が出ないはずはありません。
☆たなべ・しんたろう 1978年生まれ。東京都出身。2001年に「Changin’ My Life」でデビュー。03年に解散後は作曲家としてAKB48在籍時の渡辺麻友などに楽曲を提供。監修した「焼肉の教科書」シリーズは累計35万部を突破。最新著作「焼肉のすべて」が発売中。両親は歌手の田辺靖雄と九重佑三子。BS朝日「美女と焼肉」にレギュラー出演。