【ジャパンカップ】リアルスティール矢作調教師が競馬界の女神に明かした「香港Cの招待蹴った理由」と「ムーアのすごさ」

2016年11月22日 21時31分

稲富(右)の直撃に笑顔で答える矢作調教師

【ジャパンカップ(日曜=27日、東京芝2400メートル)稲富菜穂のだいじょばない特別編】競馬の秋も深まり、今週末の日曜は東京競馬場でGI第36回ジャパンカップが行われる。国内外から強豪が集うこの一戦で、大きなカギを握るのは香港のビッグレースの招待を蹴って参戦する国際GⅠ馬リアルスティール。陣営の勝利への選択と自信度は――。「だいじょばない」で渦中の人物を直撃してきた“競馬の女神”稲富菜穂は、同馬を管理する矢作芳人調教師(55)の胸中に迫った。

 

 稲富菜穂:本日はよろしくお願いします。まずは香港カップ(※)からジャパンカップへ目標を切り替えた理由を教えてもらっていいですか?

 

 矢作芳人調教師:今回に限ったことではなく、どんな馬であっても出走メンバーと賞金を見比べて、少しでも稼げるレースへ――。プロフェッショナルとしては当たり前の考えで、それが厩舎の理念でもあるからね。香港カップにはモーリスがいるし、1着3億円の賞金でこのメンバーなら…という思いもあって、JC参戦を決めました。

 

 稲富:ず、ずいぶんと現実的なんですね。

 

 矢作調教師:もちろん、リアルスティールが日本でGIを勝っていないという背景もある。格好のいいことを言わせてもらえば、元来が競馬が大好きでこの仕事をやっている人間。そんな自分にとって、JCと有馬記念はいわゆる“王道”だし、カップと名のつくレースは特別なものだから。国内最高賞金の一戦で“ジャパンカップ”という名称のついたレースを勝ちたい。その思いも強かった。

 

 稲富:今回はドバイターフを勝ったライアン・ムーア騎手(英国)とのコンビ復活。注目されています。

 

 矢作調教師:前走の天皇賞(秋2着)も外枠がどうこうと言われたけど、彼が乗ってくれたドバイターフの時のほうが、はるかに不安を感じていた。外を回らされるイメージが強かったし、実際に馬を前に置くこともできなかったから。

 

 稲富:やばいパターンだったわけですね。

 

 矢作調教師:最初は行きたがるような面を見せていたからね。でも、彼は馬の顔を内に向けることで折り合いをつけた。すごい技術だよ。

 

 稲富:世界一とも評されるムーアさん。先生の考える同騎手のすごさとは?

 

 矢作調教師:技術がすごいのはもちろんだけど、馬を把握する能力、レース前に勉強をする気持ちが彼は素晴らしい。先日の京都新馬戦(13日=ミッキーロイヤル・7着)に乗ってもらったんだけど、その馬の血統さえ彼は知っていたよ。いろいろなことを理解したうえで馬に乗っている――そう感じたね。技術だけではないプラスアルファがあるから、彼は世界一なんだと思う。

 

 稲富:聞いているだけでゾクゾクしてきました!

 

 矢作調教師:リアルスティールに関してもそうだったね。あの馬はトモが少し高い感じの走りをする。ディープインパクトの子にしては、伸縮してからの切れが足りないと考えているし、それがトップクラスとの対戦では弱点になると思っているんだが…。

 

 稲富:天皇賞では最速タイの上がり3ハロンをマークしていましたよ。

 

 矢作調教師:でも、自分の中に切れたというイメージはないんだ。切れを生かすのではなく、長くいい脚を使うタイプ。その考えは変わらないし、好位付けの競馬をしたほうがいいと思っている理由でもあるんだけど、初めて乗った時から彼はその特徴を把握していた。それには驚いた。実際にそういう競馬をしてくれたしね。今回もそういう競馬をしてほしいし、してくれると思っている。

 

 稲富:でも、ちょっと複雑です。私は以前からリアルスティールの大ファンなのですが、福永騎手とコンビを組んでいるリアルスティールが大好きだったので…。

 

 矢作調教師:デビューからスタッフと一緒に(福永)祐一が馬をつくり上げてくれた。祐一でいくと決めたのは自分だし、ずっと祐一でいきたかった気持ちがあることは知っていてほしいね。

 

 稲富:その言葉を聞いて、うれしい気持ちになりました。福永騎手とスタッフがみんなでリアルスティールをつくり上げている。そんなドラマ込みで大好きだったので。

 

 矢作調教師:正直、リアルスティールの祐一に関しては批判の声しか聞こえてこない。だが、決してそんなことはない、と改めて言っておきたい。彼がスタッフと一緒につくってくれた土台があるからこそ、現在のこの馬がある。そう思っているよ。

 

 稲富:2着だった前走の話も聞かなくっちゃダメですね。11着に惨敗した安田記念との違いは?

 

 矢作調教師:競馬の週にやり過ぎるのは良くないと思っていたけど、安田記念は日数が足りず、レースの週に目一杯の調教をするしかなかった。それが敗因。毎日王冠も出走するところまでなら持っていけた。しかし、そのためにはレースの週に目一杯の調教をしなくてはならなかった。

 

 稲富:それを避けるために毎日王冠を回避したんですね。

 

 矢作調教師:2000メートルのスローペースで折り合える馬が、1600メートルであれだけかかる。それがおかしい。実際、安田記念の時は東京に到着してからテンションが明らかに高かった。前走は装鞍こそ大変だったけどそれ以外はとても落ち着いていた。

 

 稲富:そういえば、前走はパドックになかなか現れませんでした。装鞍が理由ですか?

 

 矢作調教師:35年以上も馬の仕事をしているけど、あそこまで鞍を置かせてもらえなかったのは初めて。他馬がパドックに出発する時点で、リアルスティールは鞍をまだ置けてなかったんだから。結局、診療所に戻り、そこで縛りつけて鞍置きをした。さすがに厳しいかと思ったけど、それでも走るんだから、あの馬はやっぱり並じゃないんだな。

 

 稲富:安田記念こそ崩れてしまったけど、この馬はホントに堅実ですね。そこが大好きなところなんです。

 

 矢作調教師:ドバイの時にライアンがこの馬のことをコンシステント(consistent=堅実)という言い方をしてた。ものすごい信頼性が高い馬だと。今回も普通に走ってくれれば、間違いなく堅実に伸びてくる。それだけは確かだと思う。でも、我々からすれば2着や3着ではダメなわけじゃない? 悔しいばっかりで。

 

 稲富:私もそれ以上を望みたいです!

 

 矢作調教師:前回の状態は100点ではなかった。これは間違いない。そして、今回はダービー(4着)の時よりもいい精神状態で挑めると思う。これも間違いない。日本でもGIを勝ちたいと思っていますのでぜひ応援してください。

 

※12月11日に香港のシャティン競馬場で行われる4つの国際競走のメーンレース。芝2000メートル、1着賞金は1425万香港ドル(約2億394万1500円)。日本からはエイシンヒカリ、クイーンズリング、ステファノス、モーリス、ラブリーデイが出走予定。

 

☆やはぎ・よしと=1961年3月20日生まれ。東京都出身。厩務員、調教助手を経て2004年に調教師免許取得、翌05年開業。14年JRA賞(最多勝利調教師)など表彰多数。10年朝日杯FS(グランプリボス)、12年日本ダービー(ディープブリランテ)などJRA・GI3勝(重賞25勝)。

 

☆いなとみ・なほ=1990年12月16日生まれ。関西在住のタレントとして幅広く活躍し、現在はKBS京都の「競馬展望プラス」、ABC「おはよう朝日です」に出演中。彼女が取材した馬が激走することが多いことから、一部のトレセン関係者から「競馬界の女神」と呼ばれている。