芦毛の新怪物エイシンヒカリの正体

2014年12月09日 20時00分

外ラチ沿い激走でアイルランドTに快勝したエイシンヒカリ

 21世紀のサイレンススズカか、それともオグリキャップか――中央競馬のGIシリーズは佳境に入りつつあるが、今週末は最高峰レースよりも注目すべき一戦、そして馬がいる。土曜(13日)阪神、GIIIチャレンジカップ(芝外1800メートル)のエイシンヒカリ(牡3・坂口正則厩舎)。デビューから無傷の5連勝、そしてその内容が破天荒ですさまじい。芦毛の新怪物の正体に迫った。

  衝撃的な競馬だった。前走のオープン特別・アイルランドT。エイシンヒカリは好スタートを決めると、すぐに1馬身ほど抜け出して先頭へ。そのまま大きなストライドでグングンとスピードに乗り、後続との差を広げる。1000メートル通過が58秒2。2番手集団とは15馬身ほどの差がついた。

 かなり速めのミドルペースだが、このまま押し切る…ところが、ここで競馬ファンの度肝を抜くパフォーマンスが繰り広げられた。ラスト400メートル標識あたりから、内ラチ沿いを走っていた同馬は外へ膨れだす。鞍上の横山典が右ムチ(内側に戻るように指示)を入れてもどこ吹く風で、観客スタンドがある外ラチ目掛けて突進する。

 最後は外ラチ沿いを爆走してゴール。距離ロス(横移動推定33メートル)は相当なものだが、それでも2着馬に3馬身半差だからすさまじい。今年のドイツダービーでシーザムーン(今年のドイツダービーで11馬身差Vの3歳馬。5戦4勝で引退した)が同様に逃げ→外ラチ沿いを走って快勝した。ただ、シーザムーンのレースは3歳馬同士に対し、ヒカリは年長馬相手。しかも、幅員の広い東京競馬場を考えれば、パフォーマンスは独ダービー馬に劣るものではない。初戦以外は後続に影さえ踏ませない逃げ切り圧勝。その姿は希代の韋駄天・サイレンススズカ(大逃げで一世を風靡した快速馬。98年、6連勝で臨んだ天皇賞・秋で故障、安楽死処分に)もオーバーラップする。

 デビューは今年の4月。ここまでわずか5走で体質が強い馬ではない。調教パートナーを務める騎手の西谷はこの馬をこう表現する。

「きゃしゃなシャシーだけど、ポルシェのエンジンを積んでいる」

 馬体の強度に見合わない搭載エンジンは、時にサラブレッドの命である脚に深刻なダメージを与えるケースもある。それだけに陣営は慎重に調教とレースをこなしてきた。4勝した時点で菊花賞出走も可能だったが「来年のことを考えて、まずはオープン特別から」と坂口調教師は一気のGI参戦を避けた。

 そんなヒカリもいよいよ本格化の時を迎えつつある。「前回使って減った体ももう戻った。最近はカイバを食べてくれるし、ふっくらしていい雰囲気」とは同馬を担当する中村厩務員。1週前追い切りにまたがった西谷も「いい追い切りができた。しっかり追えたように、もともとはちゃんと真っすぐ走る馬。前走のようなことはないと思う」と好感触だ。

 今回は重賞初挑戦だが、ここも通過点の可能性大。「まだオープン特別を勝ったばかり。今回が試金石だろう。来年のこと? 適当な距離のレースもないし、まだ具体的には何も考えていないよ」と坂口調教師。

 来春は香港、シンガポールでこの馬が得意とする芝の中距離のビッグレース(クイーンエリザベスII世C、シンガポール航空国際C)もあるが、海外遠征にも同師は慎重な姿勢を見せる。

「オーナー(栄進堂)の事務所が香港にあるし、俺も香港のレースは使ったことがあるから考えないでもないけどね。ただ、まだ体質が弱いから。今で500キロを少し切るくらいの体重だけど、実際に見ると細いからね。520~530キロに成長した時が完成と言えるんじゃないかな」

 未完成の状態ながら“怪物級”の走りだから、完成した時はどうなってしまうのか。とりあえずは13日の仁川での走りに注目しないわけにはいかない。