【チャンピオンズC】松永幹夫調教師が語る「快進撃アウォーディー強さの秘密」

2016年11月29日 21時31分

松永幹夫調教師

【チャンピオンズカップ(日曜=12月4日、中京ダート1800メートル)】中央競馬はいよいよ師走開催に突入してラスト4週。日曜(12月4日)はダート王を決める第17回チャンピオンズカップ(1800メートル)が中京競馬場で行われる。混沌としていた砂戦線だが、ここにきて破竹の快進撃で頂点に急接近しているのがダート6戦6勝のアウォーディー。その強さの秘密とは? 同馬を管理し、天皇賞(秋)馬の母ヘヴンリーロマンスにも騎乗していた松永幹夫調教師(49)に、弟ラニも含めて余すところなく話してもらった。


 ――まずはアウォーディー、ラニの母ヘヴンリーロマンスの話を聞かせてください。2005年の天皇賞(秋)を勝った当時と彼女の印象は変わりましたか

 松永幹夫調教師:変わりましたね。現在は繁殖牝馬としてしか見ていないというのもありますが、現役時代はとにかくヤンチャな印象の馬でしたから(苦笑)。でも、いい背中をしている素晴らしい馬だなと当時から感じていたし、だからこそオーナー(前田幸治氏)もアメリカへ彼女を連れて行ったと思います。

 ――先見の明はすごいですね。日本で種付けしていた馬も一流どころばかり。あの時期にアメリカで繁殖という発想が普通は浮かばないのでは

 松永幹夫調教師:キングカメハメハが2回にフレンチデピュティ。その次がジャングルポケット。本当にいい種牡馬ばかりをつけてました。それでもオーナーは「アメリカのほうが(種牡馬の)選択肢が多いから」と。

 ――アムールブリエとラニは渡米したからこそ誕生した馬。特にタピット(米国の競走馬、種牡馬で現役時は6戦3勝。種牡馬入りしてから毎年、数々の活躍馬を送り出し、16年の種付け料は現世界最高の30万ドル。日本では12年フェブラリーS勝ちのテスタマッタが代表的な産駒)をつけたラニは種牡馬としての価値も出ました

 松永幹夫調教師:いまやタピットは簡単に種付けできないものすごい種牡馬。その後継への期待はかなり高いし、実際にそういった話も出ているみたいです。大成功だったのではないでしょうか。

 ――正直、ヘヴンリーロマンスがこれだけの繁殖牝馬になると思っていましたか

 松永幹夫調教師:ここまで活躍をするとは思いませんでした。だって、難しいじゃないですか。牡馬相手のGIを勝つほどの牝馬が、繁殖でもGIを勝つ産駒を出すなんて。すぐに思いつくのはエアグルーヴ(97年の天皇賞・秋馬で重賞7勝。デビューした産駒はすべて勝ち上がり、アドマイヤグルーヴ、ルーラーシップはGI馬となった)くらいかな。

 ――エアグルーヴ産駒が芝の中距離で走っているのは理解できるんですがヘヴンリーロマンスは血統構成にダート色がないのに産駒が総じてダート。不思議でならない

 松永幹夫調教師:アウォーディーなんか特にですよね。母系がサドラーズウェルズで父はトニービン産駒のジャングルポケット。どこを見たらダートで走るんだと(苦笑)。実はダート路線になかなか転向できず、芝にこだわってしまった理由もそこにあるんです。

 ――産駒がこれだけダートで走ると、もう母系の影響としか思えません。現在は逆に芝を使いづらくなったのでは

 松永幹夫調教師:本当にそう。ジャンポケをダートで走らせるんだから、たいしたものですよ(笑い)。

 ――現役時代のヘヴンリーロマンスにもダートで走りそうなイメージあったんですか

 松永幹夫調教師:パワーがありましたし、実際に未勝利はダートで勝った。走ったと思いますよ。フェブラリーS(05年11着)の時は馬場が悪いだけでなく、メイショウボーラーがスピードで押し切る忙しい競馬。仕方がない敗戦でした。

 ――じっくりと構えられる距離が合う。それは産駒にも共通している

 松永幹夫調教師:実はアウォーディーがダートで大成できた一番の理由もそれです。ダートは追走が楽なんですよ。折り合いを心配する必要のない馬ですし、(武)豊も「アウォーディーは乗りやすい」と言ってます。

 ――アウォーディーのJBCクラシックは小回りの川崎競馬場がどうかと言われてました

 松永幹夫調教師:大型馬だし、小回り過ぎるかなとは思っていましたが、左回りの2100メートルという条件は間違いなく合う。小回りはペースも流れますからね。それに広いコースのほうがいいと一概に言えないタイプなんです。この馬は抜け出すと走るのをやめてしまう。耳を絞って内にモタれて…。勝っているので取り上げられてないけど、常に絶妙なタイミングで豊は仕掛けてくれているんです。手応えにだまされて早く抜け出していたら、差されていたレースもあったんじゃないかな。

 ――弟のラニについても聞かせてください。前走のみやこSは13着に惨敗しました

 松永幹夫調教師:馬券を買ってくれたファンの方に怒られてしまうけど、あのレースが終わった後に僕はガッカリもしなかった。「ああ、ついにやったか」と。そんな感じでした。

 ――1番枠も流れも向かなかった

 松永幹夫調教師:京都コースも合わなかったと思いますが、前走はそれ以前の問題。走るスタンバイができていませんでした。この馬は走る気になるまで待たないとダメなんでしょうね。豊は言ってました。「ラニのほうが力はあるけど、その力を常に発揮できるかどうかわからない」と。内田(博)君が小回りでラニに乗るのは初めてだったし、そこは仕方がない。

 ――ラニのほうが潜在能力が上という認識は意外でした

 松永幹夫調教師:相手なりに走れるアウォーディーのほうが堅実なのは確か。前を捕まえるのが得意な馬ですし、負けるとしたら後ろから差されるパターンでしょう。こういう馬は乗っていて安心感があるんですよ。ラニとは正反対。でも、JBCの前までは「ラニにも乗りたい」と豊は迷っている様子だったんです。

 ――ご自身はどうですか? 現役に戻り、どちらにも騎乗できる状態だとすれば…

 松永幹夫調教師:ラニかなあ。何をするかわからない面白さがあの馬にはあるんですよ。乗った人間にはそれがわかるし、見ているだけでもスケールの違いを感じるんです。

☆まつなが・みきお=1967年4月10日生まれ。熊本県出身。86年に騎手デビューし、2006年2月引退。通算1428勝でGIは91年オークス(イソノルーブル)、97年桜花賞(キョウエイマーチ)など11勝。調教師に転身して07年3月厩舎開業。GI勝利は09年秋華賞(レッドディザイア)、14年中山大障害(レッドキングダム)など。15年JRA賞(優秀技術調教師)。