【ヴィクトリアM】「追い越し車線の車」みたいだったウオッカ

2021年05月14日 20時00分

ウオッカは圧巻の7馬身差をつけた

【松浪大樹のあの日、あの時、あのレース=2009年ヴィクトリアM】

 ヴィクトリアマイルといえば、やっぱりウオッカでしょう。前年(2008年)の同レースにも出走して結果はエイジアンウインズに0秒1差の2着。上がり3ハロンは出走馬最速の33秒2だったので、負けて強しと言うべき内容なんでしょうが、個人的には牝馬限定のマイル戦でウオッカが負けるなんて想像もしていなかった。でも、負けてしまう可能性、その理由があるにはあったんです。

 もちろん、それはドバイ遠征でのダメージ。ドバイデューティフリー後の疲労という意味ではなく、実はレースを使う前から微妙な感じだったんですよね。この年のドバイには僕も帯同取材に行っていて、現地で厩舎スタッフの方々と食事をする機会があったんですけど、その段階ですでに「体がしぼんでしまった」という話を聞いていました。なので、ドバイデューティフリーの4着は落胆より「あんな状況でも頑張ってくれた。なんて精神力の強い馬なんだろうか」と思いのほうが強かったくらいですよ。ヴィクトリアマイルでの478キロは遠征前の京都記念より16キロ減の数字でしたけど、これさえもスタッフが懸命に回復させたうえでのマイナス体重だったんです。

 続く2009年もドバイに遠征したウオッカ。この年、僕は帯同できなかったので出発前に中田助手と決起集会(晩メシをともにしただけですが)を敢行。そのときに「前年の反省を踏まえて今回はボリュームを出せるように作りたい。カイバの中身も変えていきます」と言っていました。

 写真や映像で見る限りはいい体に見えたんですけどねえ。前哨戦のジュベルハッタは5着、ドバイデューティフリーが7着と昨年よりも結果が悪かった。調教担当として帯同した岸本助手は「体は良かったんやけどな。良過ぎると逆にアカンのかな」なんて首をひねっていたんですが、そのおかげで…と言うべきではないんでしょうが、この年のヴィクトリアマイルはダメージゼロ。パンパンの仕上がりでしたね。正直、負けるわけないと思っていましたし、何馬身ちぎるかが焦点と考えていたほどです。

 それでも7馬身はちょっと強烈でした。もちろん、これはヴィクトリアマイル史上で最大の着差。昨年のアーモンドアイですら4馬身ですから、そのインパクトの凄さがわかりますよね。

 ちなみに同レースの2着は11番人気のブラボーデイジーで、騎乗していたのは生野騎手でした。で、現在は音無厩舎にて調教助手をしている彼に当時の状況を改めて聞いてみたんですよ。4コーナーでは同じ位置にいた馬がアッという間に見えなくなった。どんな感じで離されていくとそうなるのか、興味があるじゃないですか!

「どんなも何も一瞬ですよ。一瞬で姿が見えなくなりました」

 あのレースには角居厩舎の馬がもう1頭走っていて、それがウオッカの前にいたブーケフレグランス。乗っていたのは売り出し中の三浦皇成騎手でした。

「ユタカさんは逃げ馬とその馬の間を狙っている感じで走っていて、直線に入ったところで〝コウセイ〟って声を出したんです。どいてくれということではなく、後ろにいるからな、という意味だと思いますけど、あれだけの馬じゃないですか。ジャマはできないし、そこが開くだろうな…と思いましたね。予想通りに1頭分のスペースが開いて、僕はユタカさんが作ってくれたスペースを〝ありがとうございます〟とばかりに使わせてもらいました(笑)。でも、そこに入ったときにはウオッカは見えなくなっていたね。とんでもない勢いで追い越し車線を走っていく車が、あっという間に見えなくなる。まあ、あんな感じに近いですかね」。

 ウオッカのベストレースと言えば、日本ダービーかダイワスカーレットとの激戦だった天皇賞・秋、もしくは鼻出血にも負けずに押し切ったジャパンカップ。このあたりだと思うんですけど、その強さが際立ったという意味では2009年のヴィクトリアマイルこそが該当レースではないかと僕は思っています。

 今年も歴史に残る名牝が出走する予定になっていますが、彼女はどんな走りをしてくれるんでしょうか。思いは尽きないですね。

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