【JC】実現した3冠馬対決 ジェンティルドンナとオルフェーヴルが教えてくれた競馬の凄み

2020年11月29日 06時13分

三冠馬同士の壮絶な叩き合いはジェンティルドンナ(奥)がハナ差制した

【松浪大樹のあの日、あの時、あのレース=2012年ジャパンC】ダービーこそが日本競馬の最高峰レース思っている僕ですが、ジャパンCはそれに匹敵する思い入れがあるレースです。実家が近所ということもあり、外国馬の公開調教には毎年のように行ってましたね。

 思い出すのは1994年。調教を見に来たファンに配られるサンドイッチをほおばっているとサインのような感じで場内に流れたんですよ。フィル・コリンズの「アナザー・デイ・イン・パラダイス」が。このグラミー受賞曲を知らないとどうにもならない話とはいえ、この年の外国馬の大将格はバラダイスクリーク。「これは!」と思いましたねえ。まさか木曜朝の東京にヒントがあるのかと…。結果は2着で人気通り。サインでもなんでもなかった(苦笑)。現在よりもはるかに純粋だった26年前の話でした。

 アーモンドアイの引退レースという看板が大き過ぎるため、無敗の三冠馬の激突を盛り上げる記事が思っていたより少ない気もしますけど、これはとてつもなくすごいことですよ。生きている間に二度目があるかどうか…。ちなみに前回の三冠馬対決は2012年。前年のクラシック三冠馬オルフェーヴル、同年の牝馬三冠馬ジェンティルドンナの対戦で2頭によるワンツーでした。この名馬2頭でも無敗ではなかったですし、同年の三冠馬でもなかった。これだけでも今年の〝奇跡〟がわかりますよね。

 三冠牝馬のジャパンC参戦を最も早く報じたのは我が東京スポーツのはずでして、なぜなら管理する石坂正調教師に「ジェンティルドンナの次走はジャパンCになったから、他社にも伝えてくれ」と言われたのが他ならぬ僕だから。基本的に仏頂面のイメージがある石坂正調教師ですが、夕刊紙にぴったりの午前8時前に電話をかけてきてくれたんですよ。だから覚えているんです。実は〝気遣いの人〟だったんだなあ…と(笑)。お世話になりっぱなしの十数年でした。

 三冠馬同士のワンツーで着差もハナ差だった同レース。素晴らしい内容、素晴らしい結末ではあったんですけども、個人的にベストレースと感じられないのはオルフェーヴルの状態がピークのそれではなかったからで、対戦相手だった石坂正調教師も「相手は状態が良くなかったらしいけどな」と言っているほどです。

 僕もフランス帰りのオルフェーヴルをトレセンで見た瞬間の衝撃は現在も忘れられませんね。隣で見ていた池江泰寿調教師に「本当に使うんですか?」と尋ねてしまったくらい。それだけにジャパンC出走の発表には心底驚いたんです。いや、本当に出走するとは思わなかったな。8馬身差で楽勝した13年有馬記念でさえも、池江調教師によれば「ピークの状態でもなんでもなかった」と。

 海外遠征からの回復が簡単でないことがわかってもらえると思いますが、最初の遠征は「凱旋門賞を勝ち、そのタイトルを手土産に引退と考えていたから、後先を考えずに限界まで仕上げた」と意気込み、ほぼ勝ったに等しい伝説の走りを見せたレース。その反動はとてつもないものだったように思えるんです。その状況でもあのパフォーマンスですからね。本当にとてつもない馬でした。

 オルフェーヴルのキャリアを考えたとき、逸走から巻き返した12年阪神大賞典や直線独走の状態から内に切れ込んで差し込みを許してしまった同年の凱旋門賞よりも、いい頃の「半分もない」と言われた宝塚記念、そしてジャパンCのほうに僕はより凄みを感じてしまうんです。これはエピファネイアにも通じるものかもしれませんね。